こんな偶然

つい最近のことだ。私は携帯電話を掛けながら旧市街を歩いていた、いつものように人通りの少ない道を選びながら。電話先はパトリツィア。昨秋気まぐれで店に入ったところ大変気に入り、それ以来贔屓にしている美容師さんだ。ただ、彼女はふたつの店を行き来しているのでいつも居るとは限らない。だから来る前に電話してね、と言って彼女が携帯の電話番号をくれたのだ。パトリツィア、こんにちは。今日は旧市街の店に居るんでしょう? 私がそう切り出すと、意外な答えが返ってきた。店? 何の店? あなたは誰なの? それで掛け間違えと知って思って謝りながら電話を切ろうとすると声の主はそれを制止して、あら、でも私、パトリツィアなんだけど、と言った。私は一瞬言葉を失って黙っていると、声の主が聞いた。あなたのお名前は? それで私が初めて名乗り、美容師のパトリツィアに電話をしたこと、しかしどうやら間違ってしまったこと、でも間違ったにしては偶然にも同じパトリツィアさんだなんて不思議なこともあるものね、と言って今度こそ電話を切ろうとすると、またもや声の主がそれを制止した。あら、でも私あなたを知っていると思うのよ。突然降り出した雨の午後に市庁舎のポルティコの下でお話したのはあなたじゃないかしら。まるでその日を思い出しているかのようなのんびりとした口調で彼女がそう言い、私はすっかり忘れていたあの日のことを思い出した。そうだ、もう何ヶ月も前、私は年上のイタリア女性に声を掛けられたのだ。急に雨が降り出した土曜日の午後だった。私はPiazza Maggiore を歩いていたがばらばらと降り出した雨から身を隠す為に市庁舎のポルティコに逃げ込んだのだ。中庭をぐるりと見て回り時間を潰したが後から後から人が集まり大変な混雑になってきたので、やれやれと溜息をつきながら其処から抜け出し、ポルティこの下に立って雨の広場にカメラのレンズを向けていた。すると彼女が声を掛けてきたのだ。私のカメラに関心を持ったらしかった。彼女も写真が大好きで、だから何か私に声を掛けたくなったらしかった。あの時彼女は電話番号をくれたのだ。私は驚きを隠せなかった。“ああ、パトリツィア、思い出したわよ。私達はあの雨の午後に知り合ったのよね。完全なる間違え電話だったけれど、素晴らしい間違い電話だったわね!”私は彼女の名前も覚えていなかったし、ましてや携帯電話に番号を記録していたことすら覚えていなかった。多分次に会うことは無いだろうと思っていた人とこんな風にまた繋がるなんて、人生はなんて素敵なのだろう。彼女が言った。こんな間違え電話をくれるなんて、これは単なる偶然ではないはずよ。私も同感だった。人間関係って面白い。何もないところから降って沸いたような人間関係。私達は近いうちに会う約束をして話を終えた。こんな偶然がある限り、普通の生活も捨てたものではない。さあ、がっかりしてばかりは居られない。元気を取り戻して頑張らなくては。

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コメント

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yspringmindさん、こんばんは。
このような状況下、ブログ(私はブログの定義がそもそも分かっていませんが)、日々、書き続ける事自体が大変であるでしょうし、私には出来ません。ブログを持っていない私には祈るくらいしか出来ないのですが、yspringmindさんは普段通りのブログを書いて下さいね。

2011/03/17 (Thu) 21:52 | TSUBOI #79D/WHSg | URL | 編集
No title

TSUBOI さん、こんばんは。いつも淡々とした私ですが今回ばかりは参りました。思考能力が止まってしまい筆が進まないのです。でも、この状況の中で私のブログを読んで気が紛れる方がひとりでも居るのであれば。早くいつものように書けるようになりたいと思います。励ましてくださって有難うございます。優しいですね。

2011/03/18 (Fri) 00:14 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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