幸せな土曜日の情景

ボローニャは冬の終わりの雪が二日間に渡って降ったので、今日になっても雪が溶けない。もっとも雪がまだ残っているのは街の中心から少し離れた辺りからで、旧市街には行きはほんの少ししか残っていない。例えば一日中陽の当たらない路地の片隅とかだけ。それに比べたら私が暮らすピアノーロ辺りは雪があるのが当たり前とでも言うかのように、歩道に、庭に、テラスに、目の付くところ全てに雪が存在する。今日のように薄日しか射さなければ、雪が溶ける筈もない。何だか真冬のように寒いし、雪で歩きにくいし。嬉しい土曜日だというのに何時までもぐずぐずしていたが、思い切って外出した。バスがボローニャ市内に入ると先程の雪景色は何処にもなく、単なる少し寒そうないつもどおりの土曜日の町並みが横たわっていて、私はほっと胸をなでおろした。3月とは不思議な月だ。12月や1月のように完璧な堅苦しい冬ではない。冬と呼ぶには少々違和感を感じる。かといって4月や5月初旬のような春でもない。春という言葉がもつ陽だまりのような幸せさん的イメージには満ちたらず、私に言わせれば3月とは、もう春だと思いたいところだけれど後でがっかりするといけないから春だと思わないほうがいい、そう言いながらも気がついたら春になっているかもしれないと心のどこかで期待する月だ。今日は沢山の旅行者を見かけた。北欧から来たらしい金髪の美しい背の高い男女。ひょっとしたら彼らは今日のボローニャを暖かいと思っているのかもしれない。そんなことを思いながら彼らの横を通り過ぎた。スペインの何処かから来たらしい10代前半の子供達の大きなグループ。多分修学旅行だろう。日本人らしい夫婦。ふたりで寄り添って地図を指差しながら歩く姿を眺めながら、ボローニャに来る人たちがいることを嬉しく思った。広場には一足先に謝肉祭を楽しむ小さな子供達の姿。色とりどりの小さな小さな紙切れをエイッと宙高く投げて頭の上に舞い落ちてくるのを歓声を上げて喜ぶ子供達。それを一緒に喜ぶ犬たち。その様子を眺めて口角を上げて微笑む人々。冴えない天気の割には幸せな土曜日の情景に暫く足を止めた。と、思い出してまた歩き出した。Atti で謝肉祭の季節にだけ並ぶ菓子を買って帰ろうと思ったからだ。謝肉祭の時期の菓子も色々あるけれど、私が好きなのは小さな不恰好な揚げ菓子だ。ドーナツの生地にカスタードクリームが練りこまれ、それをちょいちょいと小さく丸めて油で揚げた後にたっぷりの砂糖をまぶした菓子。昔、初めて食べた時はその甘さに驚いたくせに、今はそんなのも当たり前になった。勿論周囲のイタリア人たちほど大量には食べないにしても、3、4個摘まむ分には何の問題もない。郷に入れば郷に従え。多分、そういうことなのだ。そうして気に入りのパン屋さんAtti へ行くと、菓子が並んだガラスケースの前は大変な混雑だった。あらあら、と驚いていたら店の外で母さんを待っている青年と黒いセーターを着た犬の存在に気がついた。この混み具合だとお母さんはなかなか出てきそうにない。青年が犬にそう話しかけるのを耳にして、私は彼らに気がつかれぬように下を向いてくすりと笑った。そんなのも幸せな土曜日の情景。

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