自分らしい生活

1月はいつだってそうだ。日が経つのがとても遅い。いや、1月ばかりではない。他の月よりも何日か少ない2月だって同様だ。他の月は駆け足、そうでなくてもうきくきした軽い足取りであっという間に駆け抜けてしまうと例えるならば、このふたつの月はひと足踏み込んでは立ち止まり、やれやれなどと言いながら軽い溜息をついているから何時まで経っても先に進まない、そんな表現がぴったりだ。勿論これは私にとっての話であって、1月2月を楽しく過ごす人も沢山いるのだろう。そういう人達は幸運だ。全く幸運だと思う。この頃ボローニャはすっきりしない。雪が降ると脅されていたものの、たいした雪は降らなかった。それは有難いのひと言に尽きるが、雪の代わりのこのじめじめとした陰気さは一体どうしたものだろう。関節がしんしんと痛むような気候。この湿った空気の中を歩いていると、ろくなことは思い出さない。実際、私はそんな類のことを思い出していた。ローマの生活を後にしてボローニャ暮らしを再スタートした頃のことだ。14年ほど前のことで、ボローニャには外国人学生が沢山いたが、仕事となるとそういう人達にはあまりチャンスはなかった。私は仕事意欲に満ちていたが、例にもれずボローニャで職に就く運には見放されていた。それでは出来ることをしようと決めた。例えば家のことをしっかりしようとか。パスタは麺棒で延ばして飛び切り美味いのを作るとか、何時間も掛けて肉の煮込み料理を作るとか。それから大理石の床をピカピカに磨くとか、家中の窓ガラスや鏡を奇麗にするとか。洗濯物が乾いたらぴしりとアイロンを掛けるとか。おかげで家の中はいつも奇麗でそれなりに整頓されていたし、食事も美味しかったから相棒は大そう喜んでくれたけど、そればかりを繰り返しているうちに私は虚しさを感じるようになった。それらをすることは大切なことと思っていたが、私はもっと外の世界に接したかったのだろう。社会に参加するとか、外に出て人と交わるとか。自分らしい生活。それである日を境に私は家のこともそこそこに外出するようになった。そもそも家をその界隈に借りたのは、私が気軽に旧市街へ行けるようにとのことだったのだ。そうだ、家のことをしようと決めたのは他でもない自分で、相棒はひと言だって強制めいたことは言わなかった。何てことはない、自分で自分を締め付けていたのだ。そんなことを旧市街に向う途中に思いながら、やれやれと苦笑した。あれも冬のこんなじめじめした頃だった。あまり楽しくなかった頃の思い出。もう昔のことですっかり忘れたと思っていたのに、この冬の天気が思い出させた。しかしこんなことを思い出すのも案外良いことなのかもしれない。そうして今の自分らしい生活を感謝すると良いだろう。勿論良いことばかりでないにしても。当たり前のことが当たり前に横たわっている毎日。朝が来れば眠い眠いと言いながらも身支度をして外に飛び出す生活。何だかんだと文句を言いながらも平日は仕事に勤しむから、土曜日の散策が楽しいこと、年2回の休暇が楽しいこと。いつの間にか迷い込んだ路地をひとり歩きながら、私は14年前の冬と今を行ったりきたりしていた。

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コメント

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私も同じです。一月二月はどうしても元気を出すことができなくて小さく縮こまっています。雪は好きなのに寒いのが苦手なので、いっそ大雪でも降って暖かい家の中に閉じ込められてしまえば落ち着いて本を読んだりできるのに、このところめっぽう寒くて(零下20℃) そのうえ太陽がかんかんに照っているのですよ。

そういえば昨日の記事「黄色い壁」は私に Pieve di Cento の壁を思い出させました。忘れられない小さな小さな町ですね。

2011/01/23 (Sun) 04:11 | September30 #79D/WHSg | URL | 編集
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2月は私にとってあっというまの時が多かったです。よく旅に出たのも2月。家にいた覚えがほとんどなかったのですが、今年はがっつり家で過ごす事になりそうです。笑
でも散歩にはすこし寒すぎますね。ミュンヘンも毎日ちらちらと雪が舞っています。

2011/01/23 (Sun) 07:24 | inei-reisan #79D/WHSg | URL | 編集
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初めまして。
最近、ボローニャに行ったのですが、その前に、ボローニャのことを検索していて、このブログに出会いました。
写真と文章がとても素敵で、大ファンになりました。これからも、ちょくちょくお邪魔しますので、よろしくお願いします。
本当に、1月2月は、いやな季節ですね。だから、カーニバルがあるのかな、なんて思います。
それでも、私の住んでいるプーリアは、青空が見えることも多いのが、救いです。

2011/01/23 (Sun) 07:46 | ゆきーな #79D/WHSg | URL | 編集
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「一月は行く 二月は逃げる 三月は去る」と子供の頃に母が言っていました。
そして、いつもこの季節にそれを思い出します。
昔の人も同じように春を待ち望んでいたのでしょうか。
ここの暮らしに慣れたとは言え、寒いのはやっぱり苦手です。

2011/01/23 (Sun) 18:00 | camera-oscura #79D/WHSg | URL | 編集
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Septemberさん、そう、そうでしたね。互いに冬が苦手でしたね。ホリデーシーズンは何とか乗り越えられるものの、1月2月の長いことといったら。零下20度で太陽がかんかんに照っているなんて凄いですね。きっと空が青くて高くて気持ちが良いのではないでしょうか。しかしそんな寒さでは、ちょっと散歩ともいきませんね。(そんな寒い中を歩いている人っているのでしょうか。)私だったらとっくに冬眠です。
Pieve di Centoとこのハンガリーの小さな町は確か日本の少し似ているかもしれません。

2011/01/24 (Mon) 22:28 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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inei-reisanさんにとって2月はあっという間ですか。羨ましいですね。私の2月は指折り数えているのにちっとも前に進まない、そんな月です。2月によく旅に出たそうですが、暖かい町が目的地でしょうか。私もこの季節になるとカナリア諸島やマデイラ島などに足を延ばしたいなどとよく思います。しかし未だに実現せず。それも私の1月2月なのです。ミュンヘン、寒そうです。風邪引かないようにしてくださいね。

2011/01/24 (Mon) 22:33 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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ゆきーなさん、はじめまして。こんにちは。最近ボローニャに来られましたか。ボローニャは何しろ気候に恵まれない内陸の盆地の町ですから、直ぐにプーリアの青空が恋しくなったのではないでしょうか。確かにこんな季節だから楽しいカーニバルがあって、人々が夢中になるのかもしれませんね。それにしてもプーリア! 一度行ってみたいです。美味しい食事とワインと青い空を求めて。
これからもお付き合いお願いします。

2011/01/24 (Mon) 22:38 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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camera-oscuraさん、一月は行く 二月は逃げる 三月は去る、とは面白いですね。私、初めて聞きましたよ。私が母が言ったことで覚えているのは”秋の日はつるべ落とし”くらいだと言ったら母はきっとがっかりするでしょうね。こんな冬があるから春の喜びが大きいとは言え、それにしてもちょっと長すぎやしませんか、と言うのがボローニャの冬ですね。

2011/01/24 (Mon) 22:41 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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