セーターと彼女

11月もそろそろ終わりで寒さが一段と増している。昨日の寒さといったらなかった。そんな中、私はバスに乗って旧市街へ。勿論、首の回りをぐるぐる巻いて帽子で頭を包み、しっかり防寒しての外出だ。土曜日は私にとって大切な週末の一日なので、家の中でじっとしていることが出来ないのだ。天気が良い土曜日、そしてチョコショウ開催中とあってボローニャ旧市街は華やいでいた。私はといえば最近美味しいチョコレートの詰め合わせを頂いて毎日ひとつふたつと摂取している為、今回のチョコショウは単に見て周るだけ。購入したら最後、食べたくなるに決まっているから、我慢我慢と自分に言い聞かせてのチョコレート鑑賞。そうまでしても見て周りたいのには理由があって、私が無類のチョコレート好きであることは勿論だけど、毎年これを見て周ることで季節を感じることが出来るからだ。冬の足音が聞えるような、秋が急ぎ足で去っていくような気配。これが終わるとPiazza Nettuno の端っこにクリスマスツリーが建ち、長い冬の夕方は橙色の光の波で輝く。さて、このところ私はセーターを探しているが、探している時に限ってなかなか良いものに出会わない。私が買い物をするときはいつもそんな感じで、探していない時やそんな余裕がないと気に限って大変相性の良いものに出会う。そんな訳で私のセーター探しはもう3週間も続いていた。ちょっとくらいバジェットを超えても良いのだ。兎に角気に入ったものでなくてはいけない。気に入れば大切に扱って何年も活躍して貰えるのだから。ふと思いついて塔のすぐ近くの店に入ってみた。この店の存在はもう長いこと知っていたが、こうして入ったのは初めてだった。私の年齢よりもずっと年上の女性が入る店だと思い込んでいたからだ。それなのに店に入ってみたのは、中に居た店の人がちょっといい感じだったからだ。年齢は多分私より上で、金髪のストレートヘアをおかっぱに切っていた。彼女は店の中央に椅子を置いて座っていた。店には客人はひとりも居なくて、彼女は本を読んでいたのだ。私が入り口の扉を押して入っていくと、彼女はふと顔を上げて優しい声でBuongiorno と挨拶した。メタルフレームのごく普通の眼鏡の奥には栗色の穏やかな瞳が笑っていた。彼女が本を閉じて立ち上がったので、訊いてみた。カシミアのセーターはありますか。ああ、あります、あります。彼女はそう言って私を店の奥に招くと、幾つものセーターをカウンターに並べた。そのうちのひとつは厚みがあって素肌にそのまま来ても十分暖かそうだった。試着してみると自分の印象にぴたりと来て、やっと探していたものに出会えたような気がした。しかし値札を見てみたらちょっとどころか随分高い。冬の割引まで待った方が宜しいようだが、待った所でこれがあるとも限らないだろう。さて、どうしたものかな。と悩んだ顔をして試着室から出てきたら、店の彼女が言った。昨日と今日は二割引くんです。だから気に入ったのあったら大変お得なんです。こういうのを運命の出会いというのだろう、と勝手に解釈して勘定を済ませた。彼女がセーターを包んでいる間、私達は他愛ない話をした。彼女は俗に言う華やかさはないけれど聡明な印象の女性で、話し相手をポジティブな気持ちにさせる能力に長けているようだった。いや、能力と呼ぶべきではないかもしれない。彼女の人間性なのかもしれない。それから何か懐かしい感じのする、今までも知り合いだったような気持ちにさせる女性。私が店に入る前に感じた、ちょっといい感じ、は当たったようだ。ボローニャに住んでいるのかと聞かれたので、住んでいるのはピアノーロだけど毎日ボローニャに来るんです、と答えた。すると彼女は、それならまた何処かで会うかもしれないわね、と嬉しそうな顔をした。そうね、何処かで会ったら今度はお茶でもしましょうよ。私はそう言葉を残して店を出た。あんな感じの女性になりたい。久し振りにそんな気持ちになって気分がよかった。雨も雪も降らない土曜日。とても貴重な土曜日だった。
11月28日。日曜日。昨日の天気が嘘だったように思える。昼前に降り始めた雪があっという間にピアノーロを白く包んだ。いつまで降るのか。今のところ止む気配は無い。まだ11月が終わっていないのに。少し早すぎるのではないかと空に抗議してみるが、降り落ちる雪にかき消されて声は届かないようである。

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コメント

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2010/11/30 (Tue) 09:55 | # | | 編集
No title

鍵コメさん、初めまして。リンクのお誘い有難うございます。近いうちにそちらに遊びに行かせて頂きますね。これからもお付き合いお願いいたします。

2010/12/02 (Thu) 23:39 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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2010/12/11 (Sat) 11:05 | # | | 編集
No title

すみません。
コメント投稿の順が逆で。

イタリア人て、初めて会うのになぜだか前から知っているというか、懐かしさを覚える目つきとか雰囲気を漂わせる人が、ところどころいるのですよね。
と、個人的に思っていましたが、ysringmindさんもそうでしたか。

2010/12/14 (Tue) 01:18 | Micio #79D/WHSg | URL | 編集
No title

鍵コメさん、お返事遅くなってごめんなさい。時折覗いて下さっているようで有難うございます。最近はボローニャにはいらっしゃらないのでしょうか。確かにボローニャの街並みは、懐かしい気分にさせますね。
カシミアセーターは私にとっても高嶺の花に属しますが何しろ暖かくて軽い。重ね着が嫌いな癖に寒がりの私には最適です。なんて言っているからちっともお金が貯まりません。

2010/12/14 (Tue) 23:47 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
No title

Micio さん、こんにちは。そうなんです、イタリアには懐かしい感じの人が案外多いのです。この彼女もそんな人でした。それにしてもMicio さんもそんな風に感じていたとは奇遇ですね。

2010/12/14 (Tue) 23:49 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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