憧れ

夜が明けるのが随分遅くなった。そうでなくても朝に弱いのに、窓の外が暗いから益々起きるのが難しいこの頃だ。夕方の日の暮れが早くなった。仕事を終えて旧市街に立ち寄っても見る見る間に空に墨が流れ込んだように暗くなっていく。駆け足で夜がやって来る、というと丁度良い感じだ。こんな季節に人々はどんなことを考えて生活しているのだろう。私は中学生の頃にまだ見ぬヨーロッパ大陸に憧れたことがあった。それはたぶん母や姉が好んで聞いていたレコードのせいたったかもしれない。もっとも単なる憧れで、どの国のどの町だとかいった具体的なものは全く無くて、身の回りにヨーロッパの匂いのする音楽や本、映画、色合いを見つけてはそれらをこよなく好んで大切にした。それから私は当時の私には高価だったヨーロッパの国から輸入されたチョコレートが好きだった。美しく包まれたチョコレートを口の中にひとかけら放り込んでは、何時か見た映画の一場面や本に書かれていた一行を思い出して、自分がヨーロッパの何処かを歩いているような錯覚に陥ってはそんな瞬間を楽しんだ。私はまだ子供で、色んな夢を心に詰め込んでいたのだ。両親にとっては思春期で難しい時期の私だったに違いないけれど、私にとっては多分たくさんの幾つもの夢を持っていた良い時期だったのだろうと思う。そのうち私は現実派になり、快活でエネルギーが沢山詰まったようなアメリカ大陸を好むようになったのだけど。それはそれで良いことだったと思うけれど。そうだ、私がアメリカへ行ったのは決して悪いことではなかった。色んなことに遭遇して、いろんな問題を抱えて、様々な人に助けられて、沢山の人たちと出会い、学び、泣いたり笑ったりの私の人生の凝縮といっても良い時期だった。私にとっては宝石のような4年間だった。忘れることは無いだろうけど、時々、忘れてはいけない、忘れたくないと思う。そうして私はボローニャにやって来た。多分こういうことなのだ。私は昔憧れていた、あのヨーロッパ大陸にようやく到着できたのだ、遠回りして。ボローニャに暮し始めた頃は無我夢中でそんなことには気がつかなかったけど、あれから何年も経ってからそんなことに気がついた。そんなことを考える余裕が出来たということなのかもしれない。いつもの道を歩きながら、そんなことを考えていた。

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