絵画の店先にて

気温が予報よりも上がって眩しいほどの快晴になった土曜日の翌日は、どんより曇り空で時々きりきりと冷たい風が吹く。こんな極端な天気にも随分慣れたものだけど、この時期は本当に気をつけなくては、と思う。うっかりすれば直ぐに風邪を引いて寝込むことになる。兎に角、昨日は良い天気だった。日陰を歩くと肩をつぼめるほど冷えるものの、太陽の下を歩いている限りは薄いコットンセーター一枚にスカーフがあれば充分だった。ボローニャ旧市街には驚くほどの人が集まっていて、誰もがそんな土曜日を心から楽しんでいるかのように見えた。人混みは嫌いだ。けれどもそんな中に沢山の良い表情を見つけた日は人混みも悪くない、と思う。楽しそうな人々を見物し終わると、足は自然と人通りの少ない場所へと向く。ボローニャでそんな場所を見つけるのは案外簡単で、ちょっと歩けばすれ違う人も疎らな通りが幾つもある。Via S.Margherita からVia Val D’Aposa へ、その先のVia Collegio di Spagna を通り抜けるとVia Saragozza に辿り着く。何時からそうなのか知らないが、私はこんな道順が好きだ。そうしてこの界隈の人々、街並み、立ち並ぶ小売店を観察しながら時には耳を澄ましながら散策するのが楽しい。土曜日の12時半を回った頃とあって、店の人々は閉める準備に忙しそうだった。何時まで経っても閉められないのはポルティコの下にある小さなパン屋さんで、昼食の為に、また日曜日の為にパンを買い求める人達が次々と駆け込んでくる。売切れになるまで店は閉められないに違いない。土曜日のパン屋さんとは何処でも大抵そんなものだ。その先を歩いていくと額縁屋があった。ボローニャにはそんな店が幾つもある。私が好きな種類の店で、大抵は頑固な年配の男性が営んでいる。オーダーメイドの手製とあってどれも味わい深い。家具を作る職人、靴を作る職人、骨董品を修復する職人にも通じる忍耐力なるものと彼ら独自の発想や哲学が混じって出来上がるものにはいつも感銘させられるのだが、この額縁もそのひとつである。店の奥に座って書き物をしている年配の男性がどうやらここの職人兼店主らしい。何時か中に入って話を聞いてみたいものだ。その先に絵画を売る店があった。幾種類もの絵が置かれていて中に入ってみたかったけど、店は既に閉まっていた。風景画もあれば静物画もあり、何処かのご婦人を描いたものあった。その中に淡い色で描かれた頭にハンカチーフを被ったご婦人の絵を見つけた。身につけているブラウスはとうの昔に忘れられた型で、この絵が随分前のものであることが窺われた。彼女の穏やかな表情を眺めていたら、ふとご婦人が微笑んだように見えた。勿論気のせいだ。でも、何かいい感じがした。もう一度戻ってこよう、この店に。今度は平日の夕方がいいかもしれない。私の手が届くような値段で無いことは確かだけど、誰の絵なのか、どんな背景がこの絵にあるのかを訊くだけでも良いではないか。
街路樹の葉が既に薄茶色に変わり、風が吹くたびにかさかさと音を立てて舞い落ちる。そのうち落ち葉を掻き集める人たちの姿を頻繁に見かけるだろう。掻き集めても翌日にはまた沢山の落ち葉で路面が埋め尽くされるというのに。


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コメント

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yspringmindさんへ。
こんにちは。秋晴れで暑いくらいの東京です。
素敵なお写真、宝箱のような店ですね。
穏やかな表情の彼女に呼ばれましたね(笑)
yspringmindさんのお宅の壁に飾られる日が待ち遠しいです。

さて、僕の中で旅先での一番の贅沢は、
時間をゆっくりとって骨董店を覗くこと。
出来ればなにがしかを買い求めることなんです。
さらに贅沢は、絵画かオリジナルプリントの写真を買うこと。
そのために畳んで仕舞える、骨董品用の
キャンバス地のカバンを持参します。
だから買える絵画の大きさはF6号まで。
額縁付きだともう少し小さくなります……。
いいなぁ、ボローニャ……いつかきっと行きます!

ブノワ。

2010/10/11 (Mon) 05:53 | raindropsonroses #79D/WHSg | URL | 編集
No title

ブノワさん、こんばんは。こちら大変寒くてついに暖房を入れました。秋晴れで暑いくらいの東京がちょっと羨ましいです。
この店、今まで気がつきませんでした。足を止めて覘いてみるととても良い絵が置いてあって、暫くガラス越しに鑑賞させて貰いました。穏やかな表情の彼女の絵はなかなか手が届きそうにありませんが、確かに何時か自分の家の壁に飾ったら素敵です。
ブノワさんの旅先での贅沢は、確かに贅沢ですよ。まず時間をゆっくりとるのも贅沢、絵画やオリジナルプリントの写真を買い求めるのも贅沢。でもこんな楽しみがあると旅は更に楽しいですね。
この夏、ブダペストで小さな絵を買い求めました。静かな良い表情をした聖女の絵です。古いもので額縁は少し痛んでいたのでうちに持ち帰ってから修復しました。居間の壁にかけてあります。今では其処が家の中でも一番良い空間になりました。ブノワさんが旅先で絵を買い求める気持ちが分かります。
いつかボローニャに来たら、こういう店を巡って貰いたいですね。余裕のある日程でどうぞ。

2010/10/11 (Mon) 21:58 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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