雨降りの日はあの日のことを思い出す

9月も終わりに近づいて随分冷え込むようになった。雨が降る度に気温が下がり、雨が降る度に秋が深まっていく。そう言えばローマの仕事を辞めてボローニャに帰ってきたあの年の秋もこんな風だった。仕事を終えて職場の仲間に挨拶をして、車で迎えに来てくれた相棒と一緒にローマを去った。1年弱暮らしたこの街には様々な思い出が詰まっていたが、私はとてもさっぱりした気持ちだった。大好きだった職場の仲間との別れも、大好きだったその仕事を手放してしまうのも、新しい気持ちで相棒とふたりで暮らすことを考えればどうでも良いことに思えた。それ程私は相棒とのふたり暮しを望んでいたのだろう。誰かの家の居候でも他人との共同生活でもなく、相棒とのふたり暮し。9月の終わりのローマはまだ半袖姿の人々で一杯だった。異常なほどに車とスクーターが多いこの街は常にスモッグが立ち込めていたが、それでも空は驚くほど高く青かった。私達はローマを後にするとローマから北の方向に車で小一時間ほど行ったところにある小さな美しい町ヴィテルボで一泊した。ローマに暮していた時、同居人のひとりがこの町の出身だったのをきっかけに一度足を運んでみると美しさにあっという間に魅了されて、同居人が家に帰る度にくっついていったものだ。夜遅くの旧市街は橙色の明かりが点々と灯っていて、中世の時代に遡ってしまったような錯覚に陥った。そのヴィテルボを相棒にも見せたいと思って、それから私の目にこの美しい町の様子を焼き付けておきたいと思って、立ち寄ることにしたのだった。翌日は素晴らしい快晴で益々気分が良かった。爽快。そんな言葉がぴったりの天気で、ヴィテルボから真っ直ぐボローニャに向う気になれなくて私達はウンブリア州の小さな町や村に立ち寄った。緑の濃いウンブリア州は空気が奇麗なせいなのか、何を食べても美味しかった。町のバールには素朴な人達が集まっていて、カードを楽しんでいた。何時までもそんな当ての無い旅を続けていたかったけど、夕方の渋滞に巻き込まれたら大変ということでしぶしぶボローニャへと発つことになった。助手席に座っていた私は途中から眠り込んでしまったらしい。気がつくと既にボローニャ市内を走っていた。窓の外は真っ暗でガラスには珠のような水滴が沢山ついていた。雨が降っていた。それも音を立てて降る、夢から現実に引き戻すような感じの雨。先程までの快晴は何処にも無く、闇が益々黒く光っていた。私達はアパートに着くと荷物を置くや否や乾杯をしたかったがまだ食器棚にはグラスも何も並んでいなかった。ちょっと前途多難な予感を感じながら私達のボローニャふたり暮しが始まった。その翌日も翌々日も雨が降った。糸を引くような雨が飽きもせず降り続けた。ローマの生活が恋しいわけではなかったが、毎日ローマの空を思い出した。ボローニャにはそんな青い空は何処を探しても無かった。結局雨は一週間ほど降り続け、雨が上がると完全な秋になっていた。もう随分前の話なのにこんなに良く覚えているのは、私があの雨に自分が思っている以上にうんざりしたからなのかもしれない。後2日で9月が終わる。せめて最後の2日間は良い天気になって欲しいものだ。

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