雨が秋を連れてきた

朝方雨が降ったらしかった。雨降りの土曜日になると天気予報で言っていたので今日は家でゆっくりしようと思っていたから、それに忙しい一週間で体がとても疲れていたから目を覚ましたのはいつもより大分遅くだった。アスファルトの路面がところどころ濡れていたが人々は予想外のこの天気に気を良くしたらしく、小さな子供の手を引く若い夫婦や年齢にしては足取りの軽い老人たちが道を楽しそうに往来していた。ひょっとしたらまた降るかもしれない、そう思いながらも外を歩きたい気持ちを抑えることが出来なくなって遅い朝食を急いで済ませると家から飛び出した。丁度来た906番のバスに乗ってボローニャ旧市街へ。空は一向に晴れ渡らないがそんなことはどうでも良かった。約束もなければしなくてはいけないこともない土曜日をこんな風に気の向くまま歩けるだけで嬉しかった。街はそんな人達で一杯で、何処へ行っても人の波が絶えなかった。そんな時は路地へ行くのがよい。ちょっと奥に入るとびっくりするほど誰も居ない、そんな場所がボローニャには沢山ある。Via indipendenza からVia Galliera へ。そして更に小道に入っていくと面白い名前の道に辿り着いた。Via schiavonia 、スラヴ人が住む地方の通りなんて名前の、恐らくはボローニャに生まれて育った人でも全員が全員知っているとは思えないような通りだった。寂れている訳ではない。しかし華やかな通りではなかった。少し行って左手に見つけた。地上から階段にして数段分あがったところにParucchiera (美容院)があった。この通りにしてはなかなか洒落ていて、中を覗くと客層がお洒落なのに惹かれて入ってみることにした。土曜日の昼時とあって椅子という椅子が塞がっていた。相当待つことになるかもしれないと思ったところ、私が初めての客らしいと察した若くて洒落た感じの女性客が、この店はいいわよ、ちょっと待たされても待つ甲斐があるのよ、と言って座るスペースを作ってくれたので待つことにした。10年以上通っているいつもの店に不満がある訳ではないけれど、ちょっと気分を変えてみたかったのだ。この通りに存在するこの店が一体どんな風なのか気になったのだ。それから順番を待つこの店の客層も気になったのだ。予想していた通り随分待った。何しろ私の前には10人も居たのだから。でも待っているうちに分かり始めた。女主人の腕がかなり良いということ、彼女の腕を信用して何年もずっと通う所謂常連客が沢山居ること。客人たちは時間に余裕のある人達ばかりらしく、どんなに待たされても不満のひとつも零さない。それが多分、先ほどの女性が言っていた待つ甲斐があるという奴なのかもしれない。そんなことを考えていたら順番がやって来た。直ぐに分かった。鋏の使い方が上手い。それからなかなか良いセンスの持ち主らしい。いつもの店より高いがそれでもこの店にまた戻ってこようと思ったのだから、自分が実感しているよりも私は更に高く彼女の腕を評価しているらしい。また来るわね。そんな言葉を残して店を出ると冷たい雨が降り始めた。髪を切って風通しの良くなった襟足が涼しくて、急いでスカーフを首に巻きつけた。街の中心の広場へ行くと人はまだひしめいていたが、降り出した雨から逃げるようにひとりふたりと周囲のポルティコや建物に身を隠し、先ほどのざわめきはいつの間にか消えた。濡れて黒く光る路面。客が去ったカフェのテラス席。秋の始まり。そんな言葉がぴったりの風景だった。

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