涼しさを求めて

涼しくて目が覚めたのは久し振りのことだ。昨日までは暑くて目が覚めたのに。北の方で雨が降ると言っていたが、予報が的中したのだろう。まだ頭がすっかり動き始めないのに、そんなことを考えながら体を起こした。開け放していた家中の窓を半分ほど閉めた。こんなことですら少なくとも此処2週間はしたことがない。開け放っても開け放っても風が吹かなくては仕方ないのだ、とそんなことを考えながら過ごした毎日だったから。頭がまだうまく動かない。それは多分、昨晩の祭りで食前酒などと言って冷えた白ワインを空っぽのお腹に流し込んだからに違いない。昨日は思い出すだけでも汗がでてきそうな暑い1日だった。こんな暑さは滅多にあってはいけない、と何度も思ったくらいの。そうしたところ、山の友人からの電話でピアノーロから南に車で約30分ほど行ったところの、標高にしたら500mほどの山の町ロイアーノで祭りがあることを知った。そうだ、そういえばそういう時期なのだ。昨夏はその近くの山の小さな村祭りへ行った為に、行けなかった祭りだ。ボローニャ郊外には数え切れぬほどの村や町が存在して、6月から8月の間に大小様々な祭りが催される。そして人々は祭りの情報を何らかの形でキャッチして、車で50kmも先の町や村へ駆けつける。楽しみを求めて。小さな刺激を求めて。仲間と時間を共有する為に。しかし山の祭りに限っては、涼しさを求めて、というのも付け加えたい。実際、昨日友人から祭りのことを聞いたとき、直ぐに思ったのがそれだった。21時過ぎにロイアーノで、と直ぐに話が纏まった。ピアノーロの家を出たときの纏わりつくじっとりとした空気は標高が高くなるにしたがって過去のものとなった。ロイアーノという町は特別な町ではないが、夏になると涼を求めて色んな所から休暇にやって来きて急激に人口が増える、いわゆる山の田舎町だ。沢山の車が駐車場を探して徘徊しているが、私達は穴場を知っている。墓地の裏手だ。昔の私ならば墓地の裏などに車を停めることはない。ちょっと怖い気がする、などといって。しかし人間とは変わるのだ。墓地は決して怖い場所ではないのだ。墓地は静かで宜しい、墓地の裏に駐車スペースがあるならば利用しない手は無い。実際其処へ行ってみると同じような考えの人達が車を何台か停めていて、私達は車をその並びに停めた。祭りは驚くほど盛り上がっていた。どうやらボローニャ市内からも沢山の人が来ているようで、そぞろ歩きをしている間に何人もの知り合いを見かけた。それはそうだ、こんな暑い晩に家でじっとなどしていられない。屋台で立ち止まり、まずは食前酒で乾杯した。コップ一杯のワインが1ユーロ。田舎の祭りならではの安さだった。知ってる人も知らない人も隣り合わせになったよしみで乾杯する。夏の開放感、田舎での開放感。こういう感じが好きだ。さて、私達にとって祭りで一番の楽しみといったら、出来立ての熱々のクレシェンティーナ(薄く延ばした揚げパンのようなもの)に齧り付くことである。店が何処にあるかは鼻をくんくんさせればよい。いい匂いがするほうに歩いていけば良いだけだ。クレシェンティーナの店の前には長い長い列があった。やっと自分たちの番がやって来たところで在庫が無くなり、ちょっと待って、直ぐに出来るからね、と言われた。これは運がいい証拠。ちょっと待ったが私達は全くの揚げたてを貰えてご機嫌だった。クレシェンティーナに薄く切った生ハムとチーズを挟んで貰った。絶妙だった。クレシェンティーナを求める人の列は途切れることなく、店の人は忙しそうに働き続ける。美味しいね、美味しいね、と何度繰り返しても言い足らないくらい美味しかった。そんな私達の声を聞いて、私達の傍でひたすら生ハムを薄切りしている町人が嬉しそうに顔を上げた。相棒がこの辺りの方言で言った。切っても切っても足らないね。一体いつまで切り続けるのさ。すると町人は更に嬉しそうな表情で、さあな、一晩中切り続けるのかもしれないな、と言った。町人は気を良くして、ワインを飲むかい? と言って私達に冷えたスパークリングワインを振舞ってくれた。注がれたワインを上に掲げて皆で乾杯した。こんな事があるのも田舎の祭りの良いところだ。音楽に合わせて老若男女が踊るのを視界の隅に入れながら、出店を冷やかしたり、骨董品市で小物を買ったり、店の人とお喋りしたり。ああ、祭りは何て楽しいのだろう。24時を過ぎても終わる気配ひとつ無い祭り。それにしてもそろそろ眠くなってきた、と涼しいロイアーノを後にした。そうして帰ってきたらピアノーロはまるでオーブンの火を切ったばかりのような暑さで、眠くてもなかなか寝付くことが出来ず、何度も寝返りをうって、多分そのうち疲れてやっと眠りに落ちた。
涼しい日曜日の朝。昨晩のことを思い出しながらカッフェを淹れた。さて、次の土曜日の晩はどんな風に過ごそうかな。涼しさを求めて。楽しみを求めて。人との交流を求めて。

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コメント

No title

いいですね。土曜日の事を思い出しながらカフェをのむのは 私も大好きです。それしにしても田舎祭りとてもたのしそう。

2010/07/19 (Mon) 06:10 | yborderer #79D/WHSg | URL | 編集
No title

yborderer さん、こんにちは。こんな風に急がず色んなことを思いながら朝のカッフェを頂く時間、いいですよね。夏祭りはこれからも目白押しで、8月末まで土曜日の夜遊びが続く予定です。

2010/07/19 (Mon) 22:36 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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