こんな6月はボローニャに暮すようになってから初めてのことだ。6月にこんなに雨が降るなんて。こんなに肌寒いなんて。ガラス窓の向こうでしきりに降り続ける雨を眺めながら、少し前はあんなに暑くて日陰を探しながら歩いていたのに、と呟いた。そうだ。先々週の土曜日のことだ。涼しいと思って家を出たらボローニャ旧市街は夏の日差しで参ったのだ。時折風が吹くものの、午後1時半を周ったばかりの日差しは肌に突き刺さるようだった。そうだ。まだやっと1時半を回ったばかりだったのだ。土曜日は午後2時には扉を閉めてしまうアルキジンナージオ宮に私は何時も間に合わなくて、ああ、今回も間に合わなかった、と悔しがるのだ。それで急に思いつき、アルキジンナージオ宮に向って歩き始めた。其処に辿り着いたのは後12分で閉まる、という時だった。誰も居なかった。此処は外の人混みやざわめきとは別世界で、だから私は時々ここにくる。年に何度も来るわけだから何かを見て特別なことを発見することはないけれど、小さな中庭を取り囲む回廊を音を立てないように静かに歩いていると、自分の心が静かになっていくのが分かる。時々旅行者に写真を頼まれることもあれば、此処の職員に話しかけられて立ち話することもある。しかしあの日は誰も居なかった。静かだなあ、と思いながら歩いていたら、実は私ひとりではなかったことに気がついた。女の子が回廊の端っこに膝を抱えて座っていた。どうしたのだろう。ひとりなのだろうか。お母さんやお姉さん、友達は一緒ではないのだろうか。イタリアでは誘拐や行方不明なんて物騒なことが多いので、子供をひとりで何処かに行かせることはあまりない。私が子供だった頃は小さな子供をひとりで使いや遊びに出したものだけど、私が知る限りイタリアではそういうことはさせないようだ。勿論中学生ともなればひとりで出掛けもするだろうが、こんな小学生くらいの子供がひとりとはどうしたことだろう。少し離れたところで彼女のことを見ていたら、職員が奥から出てきて言った。さあ、閉館しますよ。すると例の女の子はサッと立ち上がり、あっという間に居なくなった。その一瞬のことに私が驚いたのは言うまでも無い。しかし職員もまた、一瞬のうちに姿を消した女の子にとても驚いたようだった。今の、見た? うん、見たわよ。職員の問いかけに私はそう答えたが、どうやら私達は何かの幻を見たのではないだろうか、そんな気がしてきた。外に出てまた歩き出した。先程の女の子の姿は何処にもなく、ただ強い日差しが広場の地面を射るばかりだった。
ああ、それにしても、今頃ボローニャ旅行に来ている人は残念がっているに違いない。何しろ此処に暮らしている私達だって、本当ならば素晴らしい天気の6月がこんなことになってしまって酷く落胆しているのだから。でも君は昨日言ったじゃないか、降ればよい、たまには雨もよい、と。そう相棒に指摘されて、あれは大変な失言だったと反省する。やっぱり晴れがいいみたい。今頃そう言っても雨はなかなか止みそうにない。

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コメント

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こんにちは。
ボローニャは6月に行くのがいいですか。
友人が「ボローニャとシエナに行きたい」と言いだし、来年か、あるいはその翌年を検討しています。
いきなり、なぜボローニャ?と思いましたが、いつもこうして写真を拝見するばかりだったのにその地に行くとなると拝見する姿勢が変わるのが面白い(笑)。
具体化するのはまだ先ですが、夢を見ながらまた楽しく拝見しようと思います。
日本も梅雨で涼しい陽気の日が多いです。ボローニャでも雨のようで、どうぞお身体を大切になさってください。

2010/06/21 (Mon) 03:57 | 大庭綺有 #79D/WHSg | URL | 編集
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大庭綺有さん、例年だと6月は暑くて晴天続きです。夜9時を過ぎてもまだまだ空が明るくて、何となく心が躍ります。5月も素敵です。私にとって5月6月は急に暑くなるものの瑞々しい素敵な月です。9月も素敵です。初秋の匂いが僅かにするのにまだ夏は続く。でも、ボローニャとシエナの旅ならば5月6月が良いと思います。益々ボローニャに来たくなるように、これから色んな写真を載せていきますからお楽しみに。

2010/06/21 (Mon) 22:59 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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