鼠色の雨雲

冷たい雨が降るボローニャの5月。テレビの中のジャーナリストが今日は3月下旬の気候であると言っていたが、確かに肌寒い。どう考えても5月とは思えなかった。ボローニャに引っ越してきたのは15年前の5月下旬だった。午後のまだ明るい時間に空港に降り立って旧市街のアパートへとタクシーで向う途中、窓の外のイタリア人達を眺めていた。誰もが夏のような装いで、若い女性達はスレンダーな肢体に袖なしのシンプルなワンピースを素敵に着こなしていた。アメリカとは違う雰囲気を身に纏っている彼女達を見ながら、本当にボローニャに来たのだと実感した。あの5月は暑かった。私達にアパートの半分を暫くの間使わせてくれる女性を古い建物の扉の前で待っていると、向こうの方から若い頃のヘップバーンに似た感じの女性がポルティコの下を静かに歩いてくるのが見えた。それが私達が待っていた彼女だった。彼女にも私と相棒の姿が見えたに違いないが、足を速めるでもなく、静かに静かに歩いてきた。建物に入ると外の暑さが嘘のように涼しかった。1800年代の建物だと彼女は所々を指差しながら言った。古くて重々しい大理石のタイル。高い天井。隣の家の物音ひとつ聞えない分厚い壁。居間の窓を開けると中庭が見えて、こんな旧市街の中にも庭が存在することを知り嬉しくなった。あの日がボローニャの生活の始まりだった。遠い昔のように思える。それでいてつい最近のことにも思える。多分それは何をするにも呑み込みが悪く時間が掛かる私が、ここでもまた同じように何時まで経っても出発地点の直ぐ其処でもたもたしているからなのかもしれない。そんなことを考えているのは夢を見たからに違いない。ボローニャに降り立った日の夢。期待と多少の不安を鞄に詰めこんで此処に居を置くためにやって来たあの日の夢。
外を歩く人々の姿はあの日とは全然違う長袖姿。空は鼠色の雨雲が垂れ込めていて、強い日差しを掌で遮る必要もない。

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コメント

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2010/05/16 (Sun) 11:18 | # | | 編集
No title

サルディーニャも、ここのところ雨と風でひどい天気が続いています。

私がここに来たのはたった4年前ですが、
あっという間に過ぎ去ってしまったような、それでいて遠い昔のような気分がします。
15年後の自分がここでどう生活しているかなんて、想像もできません。
少しは成長していてくれるといいんですけど・・・。

毎日の写真がステキですね。
実は、私の主人はボローニャ出身なんです。
親戚はみんなボローニャにいて、苗字もボローニャならではの苗字。

いつかは、yspringmindさんのブログで見た写真を、
自分自身の目で見れる日がきたらいいなぁと思います。

2010/05/16 (Sun) 20:00 | Blu Marlin #79D/WHSg | URL | 編集
No title

鍵コメさん、私にとってはちょっと前にことに思えることが、実はもう随分前の事だったりすることが多々あります。時間の感覚が人とずれているせいもあるかもしれませんけど。それにしてもボローニャに来てからあまり成長も進歩もありませんが、あの日のことは遠い昔のことに思えます。

2010/05/16 (Sun) 22:37 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
No title

Blu Marlin さん、こんにちは。サルディーニャも雨と風ですか。この天気どうにかならないでしょうか、5月だと言うのにね。
私もこんな年月が過ぎたことを驚いているんです。こんなに長く此処にいることが出来たことにしても驚いているんですよ。後どの位ボローニャに居るのでしょうか。それは私にも分かりません。
サルディーニャ、いいなあ。奇麗な海を毎日見れていいなあ、と思っていたんですが、当然ご主人はサルディーニャの方だと思っていました。え、ボローニャですか。驚きですねえ。ボローニャに来られる日には声を掛けてくださいね。私のほうこそ何時かサルディーニャを訪れてみたいです。近くて手の届かない楽園、そんな感じがします。

2010/05/16 (Sun) 22:44 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
No title

確かに海はきれいで夏は最高ですけど、何はともあれ田舎なんですよねぇ。

未だミラノとローマのありきたりな観光しかしたことがないので、
ぜひボローニャにも行ってみたいなぁ。そしてボローニャの料理を習ってみたいです。

サルディーニャでかボローニャでか、いつかお会いできたらいいですね!

2010/05/17 (Mon) 19:32 | Blu Marlin #79D/WHSg | URL | 編集
No title

Blu Marlin さん、奇麗な海があれば田舎でもよい、いや、奇麗な海だから田舎の方がよいと言うのが私の意見でして。羨ましい限りです。新鮮な魚をグリルして食する生活、ボローニャでは夢のような話なんですよー。それに魚を食べていると知能が発達したり若さを保ったりと良いこと尽くめらしいんですよ。サルディーニャかボローニャで、と言うならば私は是非奇麗な海のあるサルディーニャでお会いしたいですねえ。

2010/05/17 (Mon) 21:41 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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