好きなこと

夕方の散歩が好きだ。休みの日の昼間の散歩は時間制限無しで素敵だけど、仕事を終えた後の散歩はそれとはまた違う格別な感じがする。誰と待ち合わせするでもない、何処かへ行く目的があるでもない。ボローニャの町を足の向くまま気の向くまま、しかし時々腕時計を見ながら、もうちょっと、もうちょっと、などと呟きながら。それは小さな子供が良い天気の夕方にもう少し外で遊んでいたいと思うのと同じだ、と歩きながら急に気が付いて思わず声を立ててひとり笑いする。そういえばそういう子供だったのだ、私は。私は良い時代に生まれて育ったのだ、と思う。両親のように戦争を通過することなく、戦後の混乱も体験することなく、全く平和な時代に生まれた。まだ犯罪も少なかったから、子供達だけで学校まで歩いていくのが当たり前だったし、家に帰るときはひとりで歩いて帰ることだってあった。初夏になると何時までも空が明るくて家に帰るのが勿体無いような気がした。ひとりふたりと友達が家に帰るのをよそに、私はひとりになっても家に帰らなかった。大体、私は子供の頃からひとりで居るのが嫌いではなかった。皆と居るのも好きだったけど、ひとりで空想したり公園の地面に棒で絵を描いたり、木に登って月を眺めるのが好きだった。両親はそんな私を別に叱るでもなく、私が私らしく居られるように、周りから見守っていてくれた。両親がそんな風でいられたのも多分平和な良い時代だったからなのだろう、と思う。9月のある晩に見た満月の中に小さな兎が二匹いるのが見えたと言って大騒ぎしたことがある。早く早くと急かす私の声に両親と姉は庭に出てきて、一緒に月を見上げたのはもう随分昔のことだ。本当だ、兎が跳ねているね。そう言ったのは姉だったのか、それとも母だったのか。今となっては思い出せないけれど、そんな風にして子供時代を過ごせたことを私はとても嬉しく思う。あれから私は成長して外見だけは大人になったが、もしかしたら心は昔のままなのかもしれない。それが良いことかどうかは分からないけれど、そうであればよいのに、と思う。そして私は散策を続ける。もうちょっと、もうちょっと、と呟きながら。

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コメント

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ひとは一体変わるものだろうか、と考えることがよくあります。子供のころの自分と今現在の自分とを比べて、確かにいろいろなことを経験したり、ちょっとずる賢くなったり、ひとの哀しみがわかるようになったりしているには違いないけれど、厚い年輪を一皮ずつ剥いて行けば、剥ききった最後に子供のころのあの自分がひっそりと隠れているような気がします。

2010/05/13 (Thu) 02:21 | september30 #79D/WHSg | URL | 編集
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2010/05/13 (Thu) 02:56 | # | | 編集
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久しぶりに こんにちは!
(去年お誕生日のあたりにおじゃましました。)いつも拝見しては お写真見てイタリアに想いを馳せ、文章に共感したり私にとって「なごみ」のひとときをいただいてます。
いつだったかのショーウィンドゥの「絵」、私も欲しい!とか思ったり・・・
子供のころ道草しながら のどかに下校したり私もよい子供時代を過ごしました。両親に可愛がられていることを自覚もなく、あたりまえのように過ごしていた子供時代。。。

前のコメントされた、september30さんにも共感します。
ただ私は年齢はかなりとってますが年輪は出来てなくて厚~い外皮をむけばそのまま「子供」の自分が居るところがちょっと違いますが。f(^^;)

2010/05/13 (Thu) 06:01 | pianuzza #79D/WHSg | URL | 編集
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yspringmindさん、こんにちは。
赤い壁の風景も好きですが、日暮れの写真もきれいですね。この中を気の向くままに歩いていらっしゃるなんて、うらやましいです。^^

2010/05/13 (Thu) 13:00 | rororo-nonono #79D/WHSg | URL | 編集
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2010/05/14 (Fri) 13:32 | # | | 編集
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septemberさん、私は今迄ひとは変わるものだと信じていたのですよ。でもそれは成長と言うことなのかもしれませんね。私は自分を昔の自分とは随分違うと思っていましたが、此処最近になって、なんだ、昔と同じなのだな、と気が付いて心底笑ってしまいました。様々な装飾品で見えなかっただけのようです。でもそれは同時に嬉しいことでもありました。

2010/05/14 (Fri) 23:54 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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鍵コメさん、冬場や悪天候の日は家に篭りがちな私ですが、基本的には外の生活が好きなようです。だから私もちょっとの時間を見つけては散策、なのです。しかしですよ、鍵コメさんが言うように最近は携帯電話が鳴っては邪魔が入ります。便利な世の中は同時に自由を束縛されたりもするのですね。

2010/05/15 (Sat) 00:00 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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Pianuzzaさん、こんにちは。お久し振りです。両親に可愛がられていた自覚もなく、当たり前のように過ごしていた子供時代という表現が実にぴたりと来ていい感じです。そうなんです。大人になって分かることもあるのですよ。下校途中にひよこを売っていませんでしたか。ひよこを買って帰った日は母にとても怒られました。それが大きな雄鶏に成長して・・・。子供とは全く無責任ですね。良い思いでなんですけど。ところで私には年輪はあるかもしれませんが大した年輪ではなさそうです。あっという間に昔ながらの自分が見えます。それで良いのかもしれません。

2010/05/15 (Sat) 00:10 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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rororo-nononoさん、こんにちは。朝の風景も好きですが日暮れも好きです。心が落ち着くと言うか、安堵の溜息が出ると言うか。勿論こんな日暮ればかりではありませんが、確かにこんな中を散策できるのは私の数少ない幸運のうちのひとつですね。

2010/05/15 (Sat) 00:13 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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鍵コメさん、どんな町に暮らしていてもどんな道を歩いていても、小さな出会いはあるものです。ジャスミンの花の匂いがするなんて素敵な通り道ではありませんか。私のほうの通り道は現在ポプラの綿毛で大変なことになっています。ふわふわとこれが漂う今はくしゃみの連発で大変なのです。
ボローニャの町は特別でない分だけ暮らしやすいです。不便もありますが、不便も慣れるとあまり感じなくなるものです。娘さんがボローニャを楽しんだと聞いて、私まで楽しくなって着ました。近い将来またボローニャに戻ってこられますように。

2010/05/15 (Sat) 00:20 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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