宝物

毎年この時期になるとボローニャで普段は見ることの無いクラシックな車や昔の可愛い車、昔カーレースで走っていた古い古いタイプのフェッラーリが町を通り抜ける。これはMille miglia (ミッレ・ミリア)と呼ばれるこの時期恒例の催し物で、訳して言うなら1000マイルだ。1920年代後半から1950年代まではローマをスタート地点として北イタリアのブレーシャまでの1000マイルを競って走ったらしい。今は速さを競うことはなく、手に入れることは殆ど不可能なアンティークな車、ピカピカに磨き上げた何十年も前のクラシックな車の持ち主が人々の羨望のまなざしの中を自慢しながら北へ北へと車を走らせる。昨日の土曜日はそれらが丁度ボローニャを通り抜ける日で、ボローニャ旧市街にもその一部の車が集合した。サン・ペトロニオ教会の裏手にある小さな広場にも何台かの車が出現して、散策する人々が思わず足を止めた。現在のとは似ても似つかない古い形の小さな赤いフェッラーリを運転していたのはお洒落な老人で、当時の人がそうしていたように帽子を頭からすっぽり被り、革ベルトつき眼鏡をかけて、首には絹のスカーフ。あまりに格好が良かったし、まるで古い写真から飛び出してきたような感じだったので、あっという間に人々に囲まれて大人気だった。彼はきっと何処の町へ行ってもこんな風に人気者で、これが楽しくて毎年Mille miglia に参加しているに違いない。カフェのテラス席の前には小さな黒いチンクエチェント。多分1960年代のものだろう。最近リモデルされたチンクエチェントにはない風情と味があって、昔のイタリア映画を見ているような錯覚を起こさせるこの車が好きだ。私は免許証をとったらこの車、と夢見ていたが、運転操作が複雑で初心者には向かないと沢山の人から言われ、運転技術が向上するまで待つことにした。車内は狭いしスピードも出ない。多分現実的には今の車の方が便利に違いないのだ。それでいて町中でこの車とすれ違うと、胸がきゅっとする。憧れ、そんな感じに近い。思いがけず目の前に現れた黒いチンクエチェントに駆け寄って車の主に声を掛けた。素敵ねえ。憧れているのよ、この車に。大きな笑みを湛えた異国人に突然声を掛けられた車の主は一瞬目を丸くしたが、僕の宝物なのさ、と嬉しそうに言った。旅はまだまだ先が長いと言う車の主に良い旅をと言い残して車を離れた。僕の宝物なのさ。気に入って何度もこの言葉を心の中で繰り返した。

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2010/05/10 (Mon) 05:16 | # | | 編集
No title

鍵コメさん、日本でもイタリアのmille miglia の報道があるんですか?それは驚きです。私は毎年密かにこれを見るのを楽しみにしているんですよ。
宝物、だなんて。ちょっといいと思いませんか。

2010/05/10 (Mon) 22:01 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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