蔦のからまる

ボローニャ旧市街の真ん中に建つ二本の塔の横から延びるVia San Vitale。この道を真っ直ぐ真っ直ぐ歩いていくと旧市街を取り囲む環状道路に突き当たる。その少し手前の右手の路地に迷い込むのが好きだ。この道はちょっとした近道で、子供を連れたお母さんやこの界隈に住む人達が徒歩や自転車ですいすいと通り抜ける道。とても古い家が連なっていて、その半分くらいはあまり手入れされていず朽ちている。初めてイタリアに来た人ならばこれらを単に汚い建物、古くて目障りな建物、どうして取り壊して新しいのを建てないのかと思うに違いない。私もイタリアに住み始めた頃はそんな風に思ったものだ。そのうち古いものの良さ、朽ちたものは朽ちたものなりに味わいがあることを知って、この手の通りを好んで歩くようになった。修復されていないのは家主の経済的問題かもしれない。古ければ古いほど修復が難しい。どのように仕上げるかは建物の持ち主が決められることではなく、大抵の場合は昔と同じように仕上げる、というのを条件にやっと市が修復の許可を降ろすという訳だ。旧市街の建物はそんな風にして町並みを保っているのだ。 この古い建物はいったい何時建てられたのだろう。窓枠も古ければ幾つかの窓は古い板切れで塞がれている。屋根から蔦が壁を這うように延びている。冬場にはすっかり枯れていた蔦が新芽を出したらしく初々しい緑が古い建物に色を添えていた。この道を歩くと思い出すことがある。私がローマに暮らしていた頃のこと。私はひとりでローマに居た。ひとりと言っても実際は4人の若いイタリア人たちとの同居だったが、相棒をボローニャに置いてきたから気分的にひとりだったという訳だ。月に一度相棒がローマに着たり私がボローニャに帰ったりしたが、私にはひとりで過ごす休暇がいくつもあった。そんな時は地図をポケットに突っ込んで、歩きやすい靴を履いて、ローマの町を彷徨った。ローマはとんでもなく広かった。歩いても歩いても旧市街の散策は終わりが無かった。ある週末、確か4月か5月の良い天気の週末のことだ。何かの拍子に路地に迷い込んだ。其処は蔦が道の左右の壁という壁を這っていた。道の上からも蔦が幾本も垂れ下がり、まるで蔦のカーテンのように見えた。両親に連れられた小さな子供達が蔦の尻尾を掴もうとして飛び上がる様子を見ながら、ブランドの店が連なるのや遺跡やコロッセオ、有名な美術館だけでないローマを発見して嬉しくなった。市民の目の高さ、生活のひとこま。そういう場面をローマに住み始めてから私はずっと探していたのかもしれない。あれから私は迷い込んだ振りをして何度もあの場所を訪れた。もう随分昔のこと。今もあのままなのだろうか。蔦の絡まるこの建物を見る度にそんなことを思い出す。此処もまたボローニャの生活のひとこま。珍しいものや価値あるものは無いけれど、私にはとっておきの場所。

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  • 2010/04/12 06:45

yspringmind

鍵コメさん、ローマは歩き始めることで本当の良さを見つけることが出来る町だと思います。観光の名所が一杯だけど、それだけがローマだと思ってしまうのはちょっと残念。本当はもっと良い部分があるんですよね。でもそれはローマに限らず、どの町もそうなのだと思います。
ボローニャも土曜日の暖かさが嘘のように冷え込みました。どうやら暫く寒いようですよ。日本はこの時期雨が降ると桜が散ってしまうので全く残念。日本に居た頃毎年同じことを考えました。

ひろぽん

自分の家を改修するにあたって市のお墨付きが必要というのはイタリア全土においてもそうなのでしょうね・・・・。
その景観とは関係のない話になってしまいますが、古く朽ちかけた建物とは好対照の道路標識が良いですね。通学路?なのでしょうか?お兄ちゃんが妹の手を引いて早歩きしている標識の絵が微笑ましいです。

yspringmind

ひろぽんさん、旧市街の家に関しては自分の家でありながら思うように外の壁の色を変えたり出来ません。それから家の中も見取り図に記されているものに手を入れて変える時には市の許可が必要です。例えば壁の位置を動かしたり、壁をぶち抜いたりするときは特に。古いから取り壊すなんてのはもっての他なんですよ。
ところでこの標識は私も気に入っていまして、これは学校の近くにある標識ですが、成る程、お兄ちゃんが妹の手を引いて早歩き・・・ですか。そういわれてみればそんな感じですね!

だいちゃん

ロマーの旧市街の町並みテレビで拝見しましたが、とても素敵な町ですね。蔦がとても印象てきでした、何の品種の蔦ですかねーご存知じゃありませんか
  • URL
  • 2012/07/20 08:23

yspringmind

だいちゃんさん、こんにちは。蔦、私も好きです。昨日久しぶりにローマへ行き、壁一面を蔦が覆った建物に遭遇しました。蔦の緑色は人の心をほっとさせてくれますね。ところが名前がわかりません。特別な種類でないことは確かです。
  • URL
  • 2012/07/22 21:11

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