訪問者

今朝の景色は美しかった。昨日降った雪がうっすらと丘や谷、樹々を覆っていた。積もったところでせいぜい5cmの、黒い土が雪の隙間から見え隠れしていた。こんな景色は初めてだった。真っ白よりも更に寒さの増す風景で、仕事に行くのも忘れて車をゆっくり走らせた。ゆっくり走らせたのは勿論雪で道が滑りやすかったからでもあるけれど。前後を走る車は一台も無く、すれ違う車すらなかった。こんな朝、動物達はどうしているのだろう。前に見かけたキツネや鹿は、寒い寒いと言って穴倉で身を寄せ合っているのかもしれない。などと思いながら谷を見下ろすと、一頭の雌鹿がいるのが見えた。そしてもう10mも行ったところでは三頭の雌鹿たちが頭を寄せ合って何やら内緒話をしているような姿が見えた。どうやら鹿は寒さに強いらしい。それから雪も好きらしい。久し振りに動物に会えて嬉しい朝になった。昼前から雪が強く降り始めた。夕方になっても止まない雪。いつもなら翌朝の心配をするところだけど、有難いことに明日は祝日だ。降るが良い。明日が祝日であることを何度も感謝しては、空に向ってそう言った。雪道を走りながら相棒が言った。今年初めてのうちの訪問者は男性だったね、と。イタリアの慣わしに新しい年になって一番初めに家に訪れる人が男性だと福を呼ぶ、というのがある。今の若い人たちはそんなことをいう人はあまりいないけど、古い世代はそういうことにとても拘る。そんなことも知らずにボローニャに暮らして初めて迎えた新年の朝、私は相棒の家族を訪ねて散々舅に叱られたものだ。何ということ! これで今年の福が台無しだ! 機嫌を損ねた舅と、それ以上に憤慨して不機嫌な私を見比べながら相棒と姑が笑った。笑う相棒に腹が立って、どうしてそんな慣わしがあることを教えてくれなかったのだと私が怒ると、そうだそうだ、お前、何で教えなかったんだ、と舅が怒った。兎に角、その一年は何か都合の悪いことが起きる度に、何しろ新年の初めの訪問者が男性じゃなかったから、と言われ続けて散々だった。それ以来私は新年初日は家から出なくなった。それでうちに来た今年初めの訪問者は山に暮らす友人だった。昔はつるんでいた私たちも年を重ねる度に様々なしがらみや小さな用事、人間関係に忙しくなって会う回数が少なくなった。夏以来、約束してはどちらかが都合悪くなって会わずじまいだった。寂しいなあ、と思いながらも仕方がないことも知っていた。その友人が乾杯しようと言ってワインを抱えてやってきた。私にとってはそれが女友達であっても嬉しいけれど、何しろここはイタリア。今年初めてのうちの訪問者は男性だったね、と喜ぶ相棒に、うん、良かったね、福が来るかな、と答えると、うん、今年はきっといい年になる、と言った。年を重ねるごとに舅に似てきたのだろうか、彼は。雪はしんしん降り続く。明日の朝は美しい銀世界になっているに違いない。

コメント

No title

yspringmind さん今年初めてのコメント書かせていただきます。今年も楽しみにブログ読ませていただきます。どうぞ宜しくお願い致します。
ボローニャで雪の降った早朝、ボローニャの空港を発ちました。また、普段の生活に戻り、旅の心地よい疲れを感じながら、職場に戻りました。
今回はボローニャのみの滞在でしたので、ゆっくりと旧市街の中を散策することが出来ました。 yspringmind さんの撮ったお写真の場所を見つけては、一人悦に入っていました。閑散とした大学近辺も母を連れて歩くことが出来ました。2日のサルディの日には、大きな袋を抱えた人たちをたくさんみか見かけました。また、広場でのカウントダウンはものすごい盛り上がりで、驚きました。yspringmind のブログのお話を数々を思い出しながら楽しんで歩けました。サントステファノ教会の辺りは私もとても気に入りました。滞在中、何度も足を運び、朝、夕方、夜と、どの時間帯もそれぞれ趣があり、とても素敵なところでした。
迷路のような街も何日か散策するうちに、少しずつ方向感覚がつかめるようになった気がします。縁あってボローニャの街に出会うことができたことを幸せに思います。

2010/01/06 (Wed) 13:02 | may-green #79D/WHSg | URL | 編集
No title

may-green さん、明けましておめでとうございます。今年もお付き合いお願いします。
もう家に帰られたようですね。今回の滞在ではボローニャをゆっくりたっぷり散策できたようで私も嬉しく思っています。お母様を伴って大学近辺やサント・ステファノ辺りを歩く姿を想像してみました。ボローニャは路地がいりくんでいるので迷路のように感じますが、分かってくると案外単純。町もそれほど大きくないので慣れてしまえば歩き回るのに丁度良い、というのが私の感想です。またボローニャに来られることがあるでしょうか。今度は5月の光溢れる時期がお勧めです。縁あってボローニャの街に出会うことができたことを幸せに思う、という言葉。私も今年はもう一度そのことに感謝したいと思います。大切な言葉を有難うございました。

2010/01/06 (Wed) 23:05 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する