楽しい計画

家の郵便ポストを開けると封筒が入っていた。光熱費や電話代、カード会社や銀行から以外の封筒だった。これはかなり珍しく、大急ぎで差出人を確認するとブダペストの友人達からだった。封を開けると中にはしっかりした紙質のカードが入っていて、カードの表は20にも及ぶ扉の写真で埋められていて、写真の上にはBUDAPESTI KAPUK (DOORS OF BUDAPEST) と題名が記されていた。扉が好きで何処へ行ってもちょっと気にいった扉の前では足を止めて写真を撮らずには居られない、扉マニアの私にぴったりということで友人がこれを選んでくれたらしかった。ブダペストの街中を歩いていると目に飛び込んでくる扉たち。色といい形といい模様といい、どれひとつ同じでないのが私の関心を引いてくれる。厳めしいのもあり、可憐なのもあり。ブダペストの写真を見返すと如何に沢山の扉が私の目を引いたかがよく分かる。私は9回ブダペストに足を運んでたっぷり散策したからこの町のことは知っていると多少自負していたが、どうやらそれは錯覚だったようだ。これらの写真のどれひとつ、私は見た記憶がなかった。私の記憶、と言うのは時々自分でも凄いと思うのだけど、勉強以外のことの記憶力は奥深く、写真を撮ったみたいに鮮明に覚えているのだ。そしてそれと見た時に一緒にいた人、横を通り過ぎた人々、聞えた音や匂い、樹々がどんな風に揺れていたとかまでよく覚えている。これらの記憶が私の人生に役立つかと言えば殆ど役立たないと言っても過言ではないが、私の人生に色を添えてくれていることだけは確かである。それで扉の写真である。ひょっとしたら、と言うのがひとつあって、それをどうにかして確かめたい。かと言って差出人の友人に其処まで行って貰って本当にその扉がその場所にあるかを確かめて貰うのも何なのだ。9回目の訪問だったこの夏の旅行を終えてボローニャに帰ってきた時、ブダペストはもう充分見たから暫くはよかろうと思ったが、このカードを貰って確かめに行かなくてはならなくなった。いや、その言い方はずるいだろう。言い訳はよそう。私はブダペストが好きなのだ。それで写真を見てまたうずうずしてきたと言うのが本心なのだ。そうだ、扉を探しにブダペストへ行こう。ついでにまだ見ぬ近隣国にも立ち寄ってみたらよいだろう。と、早くも来夏の楽しみが出来てしまった。楽しい計画は幾つあっても良い。早すぎることなどひとつもない。そうだ、これから楽しい計画を沢山立てよう。このところ、少々塞いでいたのが嘘のように急に楽しい気分になった。

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