通り道

最近はあっという間に闇がやって来る。背後から追いかけてくると言うよりは、闇が私を追い抜いていく。夕方5時頃には空に墨汁が流し込まれ、30分もしないうちに空の隅々に墨が行き渡って闇になる。だから帰り道は寂しい。少し前まで元気に自転車通勤していた人も何時の間にか自動車通勤するようになり、それぞれが本当の冬の生活に入る準備をしている。仕事帰りに旧市街に立ち寄ろうものならば、暗い空と橙色の街灯ばかり。それに急に寒くなったから皆急ぎ足だ。これよりもっと寒くても、これよりずっと暗くても、クリスマス前にもなれば町には人がひしめき合って活気に満ちるというのに、丁度今頃の時期は特別いいことも面白いこともなく町がぽっかり空いている、そんな感じがしてならない。寂しいけれど人混みが苦手な私には、今くらいの時期が丁度良いのかもしれない。此処は私の通り道。旧市街に来ると必ず一度は目にする自転車置き場。近頃は新しい自転車が多い。一頃は盗まれても残念すぎない、走れば上等くらいの古いものがひしめき合っていた。治安が良くなったとは思えないが、立派な鎖の鍵を巻きつけているから、案外大丈夫なのかもしれない。それに真横にはベンチが幾つも設けられていて、何時だって誰かしら腰を下ろしているから、そうそう簡単に盗まれる心配はないのかもしれない。昔、フィレンツェに通っていた頃、知人が幾度も自転車を盗まれては悔しがっていた。こんなに頑丈な鍵を巻きつけていたのに、こんなに人通りの多い場所に停めておいたのに、と。私が子供の頃、近くの歩道橋の下に自転車が沢山停めてあった。近所の住人達が此処に止めて行くらしかった。自転車には備え付けの小さな鍵しか掛かっていなかったけれど、盗まれることはなかった。そんなのんびりした時代だったのだ、と酷く懐かしく思う。ところでこの自転車置き場の周辺には私の気に入りの店が幾つかある。手袋屋さん、帽子屋さん、そして自分が選んだ重みのある絹とさらりとしたウールの生地を縫い合わせて温かく肌触りの良いマフラーを作ってくれた紳士服の仕立て屋さん。どれも高級店ではないが物が良い。しかし今年という今年は呆れるほど金運がない。だから見て楽しむばかりであるけれど、そんな訳で私は今日もまたここを通過しては新しい自転車たちの身が心配でならないのだ。

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