10月の雨
- 2009/10/22 23:27
- Category: bologna生活・習慣
朝から雨が降っていた。夜明けの時間になっても空は暗かった。厚い雨雲が空という空に立ち込めているからだった。まるで一瞬の隙も見せてはならぬ、と言っているかのようだった。雨音で目が覚めた。決して雨脚が強かった訳ではなかった。それどころか静かに、しかししっかりと降り落ちてきて私の眠りを一瞬妨げたのだった。ああ、今日が土曜日だったらいいのに。雨音を聞きながら眠るのは案外気持ちが良いもので、暫くの間耳につくがそのうち眠りに陥って安眠できる、ような気がする。しかし今日はたったの木曜日だ。そんなことを考えながら寝床から抜け出てカフェラッテを淹れた。雨は昼過ぎまで降り続いた。しかし雨の日と冬特有の湿度は路面を乾かすことはなかった。夕方ボローニャ旧市街へ行った。最近は夕方7時ともなればすっかり夜で、ボローニャの橙色の明かりが美しい。今年もまたこの季節になったのか、と思う。この季節とは私がローマの生活を辞めて再びボローニャで生活を始めた季節だ。あの頃の私に不可能なことはひとつも無くて、ボローニャに相棒を残してローマに仕事を求めた。求めたところ仕事が見つかり、私は失いかけてた自信と自分自身と勇気を取り戻す為にひとりローマで生活した。幸運なことに良い人間関係と職場に恵まれ文句の付けようもなかったが、一向にローマで暮らす気になれない相棒を放っておくのも宜しくなかろう、と自分の意思でまたボローニャに戻ってきたのだ。自分で決めたので清々しかった。後悔もなかった。ただ、その後暫く定まった仕事に就けずに辛かった時期は、何と愚かな決心だったのだろうと自分自身を酷く攻めた。でも攻めたところで過去に戻れる筈もなく、それでも自分で決めることが出来たのだから良かったではないかと自分を慰めた。もし誰かに無理やり帰ってくるように言われたのなら、私は悔やむに悔やみきれなかったに違いない。秋と冬の間、晩秋と呼ぶと良いのだろうか。あの年の10月は雨が多くて来る日も来る日も雨だった。折角ボローニャに帰ってきて新しく始めようとしているのに、その雨で気持ちが萎えてしまいそうな気がして怖かった。もう何年も前のことなのに、この季節になると必ず思い出すことだ。ボローニャ旧市街の路面は濡れていた。まるでつい1分前まで雨が降っていたかのように。10月のボローニャにしては寒すぎる。早く帰って温かいスープでも作ろう。そう言ってバスに飛び乗った。
september30