Wörthersee

待ちに待った休暇の出発の朝方、申し合わせたかのように雨が降った。雨が降って急に気温が下がったピアノーロの朝は肌寒く、濡れた地面や鼠色に曇る空がまるで私達の休暇に文句を言っているかのようだった。もう夏は終わりなのに、それでもあんた達は夏の休暇に発つのかい、なんて風に。相棒は空を見上げては何度も溜息をついた。折角の休暇なのにとでも言うように。私はといえば休暇の始まりがこんなに涼しいことを喜んでいた。車での長旅なのだ。射るような太陽や熱風よりも、こんな曇り空や涼しい空気が有難かった。ピアノーロからボローニャへ、そして高速道路にのって北へと向う。朝8時にもならない、しかも火曜日とあって道は驚くほど空いていてあっという間にウーディネ を超え、私達はオーストリアに入った。私達が日常から脱出して本当に休暇に入ったと実感するのはいつもこの辺りからだ。勿論、車でハンガリーへと向う旅に限ってのことである。この辺りも雨が沢山降ったらしい。山肌は何処もしっとり濡れていて滝の水は驚くほど豊かだった。ここにひとつ、あそこにひとつ、と滝を数えているうちに私達はWörthersee と言う名の湖に到着した。この比較的大きい、空の色で驚くほど変化する美しい色の湖が大好きで、旅の途中に必ず立ち寄る。先程まで雨が降っていた人影のない湖はいつもより更に美しかった。湖は良い。イタリアに暮らすようになってから北イタリアに点在する湖を何度か訪れたが、その度に私は深い溜息をついた。湖の水面を見ていると心に詰まっている大小のどうでも良いことが消えていく。そう、消えていくと言う表現がぴったりのような気がする。海とは違う、山とも違う、湖だけの魔法だ。湖をぐるりと取り囲む森林は目に痛いほどの緑で、深く空気を吸い込んでみると樹の匂いがした。樹の匂い。懐かしい匂いだ。子供の頃森で遊ぶのが好きだった。雨が降った後の森は、こんな匂いがした。ところでオーストリアのコーヒーはイタリアのとは似ても似つかない。イタリアのカップチーノが好きな私ではあるが、オーストリアのコーヒーもまたとても魅力的な味わいがあって大好きだ。私がある日突然オーストリアに暮らすことになってイタリアのカップチーノを頂くことが出来なくなっても、困ることはないだろう。さて、それにしても長居は禁物。まだまだ先は長いのだ。私達は帰り道にまたここに立ち寄ることを約束してハンガリーへと車を走らせた。

コメント

No title

今晩は。素敵な旅行のようでしたね。ウキウキ気分が文の端端からこぼれています。
素晴らしい自然(湖)に接すると心に詰まっている大小のどうでも良いことが消えていくyspringmind さんが羨ましいです。私は自分で整理しないといけないタイプのようで、記録にはなっても消えたりは絶対にしません・・・(涙)。
ところでハンガリーのどこに?ハンガリーはハンガリー語ですよね。イタリア語は通じませんか?通じないでしょうね(笑)
私もForliで一泊だけ(しかも頼まれごとで)してボローニャに帰ってきました。山は涼しいですね・・・ボローニャは暑いですね・・・。
色々聞いてすみませんが、あと一般にハンガリーの人もイタリア人の様な生活なのですか?朝はコーヒーだけとか?

2009/08/13 (Thu) 20:30 | Via Valdossola #79D/WHSg | URL | 編集
No title

Via Valdossolaさん、こんばんは。短いながらも楽しい旅行でした。私は自然と相性が良いようで、こんな場所に行くと今までぐるぐる考えていた諸々のことが驚くほど簡単に消えていくのです。考えてみれば単純で、得な性格なのかもしれませんね。
ブダペストに滞在しましたが一泊2日でバラトン湖も楽しみました。ハンガリーではハンガリー語が主流で観光関係の場所では英語も通じます。イタリア語は・・・駄目ですねえ。ところが帰える前日の夕方、犬を散歩させていた老人に可愛い犬ね、と片言のハンガリー語で声を掛けたら、路上に停めてあった私の車を指差して、あんた、イタリアからかい?と老人がイタリア語を話すんですよ! びっくりしました。それでイタリアの朝食は凄いです。コーヒーだけなんてとんでもありません。朝から肉や野菜満点で、見ただけでお腹が一杯になりました。

2009/08/14 (Fri) 00:11 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する