夏の帽子

夏は帽子を被らない私は、被らない代わりに帽子見学を楽しむ。夏の帽子は素敵だ。素材は綿であったり麻であったり、見ていると涼しい気分になれる。男性用のパナマ帽はどんな人が買い上げていくのだろう。そんなことを想像したり。私の父は帽子が大好きだった。夏も冬も、そして春も秋も帽子を被っていた。形はいつも同じで前方にほんの小さなつばが付いたハンチング帽だった。夏になると麻素材の白いハンチング帽を被っていた。もうひとつ気に入っていたのは左右にメッシュ素材を使った通気性の良い奴だった。どれも母が選んだもので、母の拘りによる上質なものであった。帽子を被っている男性は沢山居そうであまりいなかったから、遠くからでも父を見つけることが出来たし、混雑した駅でも父を見つけ出すことは安易だった。私は父をとても好きだったから、駅などで前方を歩いている父を見つけると嬉しくて思わず大きな声で父を呼んだものだ。照れ屋の父はいつも笑いながら、何だそんな大きな声で、と私を窘めた。けれども言葉とは裏腹に娘に声を掛けられて嬉しそうな表情と声であった。夏の夕方、家へと続く長い坂道を肩を並べて歩いたのが昨日のことのようだ。父は娘達に夢を気が済むまで追いかけることを応援してくれた。一回きりの人生なんだから。そうだ、確かにそう言っていつも励ましてくれた。あの頃の私は子供過ぎて、それがどんなに深い意味なのか分からなかった。今頃分かるなんて遅過ぎるけど、今頃でも分かったことを嬉しく思う。父は普通の言葉で大切なことを教えてくれていたのだと思ったら、父のものとは色も柄も違うハンチング帽を見ながら胸が詰まった。もうひとつ分かったこと。私がこんな大人になっても、父が居なくなって4年経った今も、昔と変わらず父をとても好きなこと。

コメント

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こんにちは。また胸キュンの文です。私の父はベレー帽でした。ほとんどどこかに行ってしまった頭髪の代わりをしていました。知らない人は漫画家ですか?と聞いていましたが、ただの勤め人。他界してからフト私も帽子をかぶってみましたが、どれも似合いません(家族評)。帽子も人を選ぶのでしょうね。徐々に私の頭髪も旅立っています。いつの日か、帽子が代わりになってくれる日が来るのでしょうか。

2009/07/17 (Fri) 12:25 | Via Valdossola #79D/WHSg | URL | 編集
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Via Valdossolaさんのお父さんはベレー帽を被っていたんですね。ベレー帽は日本では何故か絵を描く人のシンボルみたいに思われているのが面白いですね。そういう私も普通の人ですが秋冬は好んでベレー帽を被ります。帽子は、私個人的考えですが、被る本人が似合うと思って被ると何故はしっくり来るんです。反対にちょっと疑問や抵抗を感じながら被ると帽子と波長が合わなくて宙に浮いたような感じになってしまうんですよ。私の場合帽子は、防寒が目的なのですが、それにしても店先の帽子を観察するのは私の趣味のひとつなのです。

2009/07/17 (Fri) 23:25 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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yspringmindさん、こんにちは。
お父さんのお話で、気になることがあったんですが、よく「女の子(私はもうそういう歳ではないのですが^^;)父親に似る」という事。実際私もそうです。影響を受けているのかな?と思ったりもしますが。逆に、男の子は母親の影響を受ける(似る)、ということ。私の兄2人がそうなのですよね。。それとうちの人と。ずっと昔に、女の子は父親似であれば幸せになれるよ、と聞いたことがありましたっけ。

2009/07/18 (Sat) 05:00 | TSUBOI #79D/WHSg | URL | 編集
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TSUBOIさん、こんにちは。私もよくそういう話を聞きます。我が家に関して言えば姉は母親似で私が父親似です。多分性格も顔も。よく言えばのびやかで楽しく自由、悪く言えば計画性が無くて真剣味が足らない。父から貰った宝です。TSUBOIさんのご主人同様、私の相棒も母親に良く似てます。でも年々頑固になっていくその様子は父親とそっくりだと思うのです。それを言うと本人は凄く嫌がりますけど。

2009/07/18 (Sat) 16:24 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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