良い日曜日

雨の降らない週末になった。金曜日の晩、海へと発った近所の老夫婦の娘はきっと海を満喫したに違いない。気が強くていつも大きな声で話をしている娘だが、毎日仕事の後に年老いた両親を今日も元気にやっているかと顔を見に来る優しい娘だ。娘といっても既に50を超えて結婚もしているが、親にとっては娘はいつまで経っても娘である。さて、天気が良いし皆それぞれ楽しいことをしているようなので、久し振りに山へ行きたくなった。山に住む友人ジーノに電話すると予想通り留守だった。もう数ヶ月もそんな調子だ。向うが会おうと言ってくる時はこちらの都合が悪く、こちらが会おうと電話をすれば向うの都合が悪いのだ。長い付き合いだがこんなに会わないのは初めてかもしれなかった。まあ、いいさ。そんな風にして私と相棒は山へと向う。山といっても近所の山で、標高は僅か500mからせいぜい800mである。北イタリアのドロミテ山脈のような山ではない。しかし空気は澄んでいるし緑は濃いし、そんな場所が家から車で20分としない所にあるのは悪くない。ボローニャの町を背にしてぐんぐん車を走らせる。次第に標高が上がっていくと、あった。まだ麦畑が刈られずに残っていた。が、向うを眺めるとそれらを今まさに刈り取ろうとしている農夫達がいた。どうやらこの辺りも今日で麦畑とお別れらしい。そんな最後の日にここに来ることが出来たことをとても嬉しく思った。何処からか草の匂いがした。多分向う側の畑で草刈をしているらしい。こんな天気の良い週末は農夫にとっては休んでいる場合ではないのだろう。この辺りは気持ちが良く、少し前まではこんな所に家を持ちたいと夢を見ていた。ところが標高たった200mのピアノーロでさえ冬は寒くてお手上げだから、自然とそんな夢は消えていった。何しろこの辺りときたら10月中旬になると体が深々と冷え出してあっという間に冬に入り、4月終わりごろに遅い春がやってくるのだ。一年の半分が冬なのだから、寒いのが苦手な私には不向きというわけだ。だから良い季節にこんな風にふらりと立ち寄るのが丁度良い。そういう答えにやっと辿り着いた。留守と知ってはいたが友人の家の前を通ると、黒猫のマザニエロが道の脇に寛いでいたので車を停めた。元気だったかと声を掛けると返事をする代わりに足元に擦り寄ってきた。可愛いわねえ、あんた。そんなことを言っていると近所の人たちが声を掛けてきた。ジーノは居ないよ、と。うんうん、と頷きながらちょっとマザニエロに会いに来ただけなのよ、そう答える。この辺りは世間が狭いので誰もが知り合いだ。そういうのが窮屈に思う人も居れば、そんな関係が良いという人も居る。人それぞれというわけだが、私は案外こういう関係が好きなのだ。この近所の人たちはジーノと私達が良い仲間であることを知っていて、だから私達がここの住人でなくともまるで近所の人のように扱ってくれる。初めの頃は外国人の私を遠巻きに観察していた彼らだが、ふーん、悪くないかもしれないねえ、と思ったのだろうか、いつの間にか向うから声を掛けてくれるようになった。嬉しいではないか。ジーノの家に遊びに行く楽しみはそんな近所の人たちとの付き合いも含まれているのである。ごろごろと喉を鳴らして喜ぶマザニエロに別れを告げて急な坂を下っていく。特別面白いことがあったでもない2時間ほどの車散歩だったけど、良い気分転換になった。たまには町から脱出しなくてはね。そういいながら良い日曜日が終わっていった。

コメント

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しまった!麦畑が残っていましたか!?もう刈り取られて残っていないでしょうね・・・yspringmindの写真で我慢します・・・残念なり。

2009/07/12 (Sun) 22:53 | Via Valdossola #79D/WHSg | URL | 編集
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先に送ったコメントの訂正です。誤「yspringmindの」、正「yspringmindさんの」。失礼しました。

2009/07/12 (Sun) 22:55 | Via Valdossola #79D/WHSg | URL | 編集
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のどかな田園風景、自分がそこに立って見ているような気にしてくれるすてきな写真です。まるで美術館で見る風景画のような、というのは写真家にとっては褒め言葉にならないかも知れませんが・・・

2009/07/13 (Mon) 16:01 | september30 #79D/WHSg | URL | 編集
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Via Valdossolaさん、そうなんですよ。麦畑がまだここには残っているのを発見したとき、ああ、Via Valdossolaさんに見せてあげたいと思ったんです。多分、この週末で刈り取りは終わってしまったのではないかと思います。こういった麦畑はバスが通っていない田舎にあるために、なかなか見つけにくいのですよ。私の運転の腕が良かったら、明日にでも車に乗せて連れて行きたいですが、何しろ凄い狭い道で舗装されていない所も沢山ある上に上り下りの激しい山道なのでまだまだ修行が必要みたいなのです。ごめんなさいね。今度、906番のモンギドーロ行きバスに乗ってみてください。標高800mの田舎に到着します。何にも無い所だけど、夏はなかなか気持ちが良いのですよ。

2009/07/13 (Mon) 21:50 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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septemberさん、不思議なことにこんな風に写真が取れました。まるで絵のような。でも実際絵のような場所なんです。あっちの谷、こっちの山腹、一面に生えている薬草、高い空、雲の群れ。トスカーナとはまた違った色を持つ田舎の風景です。美術館で見る風景画のような、とは写真家には褒め言葉でなくとも画家には褒め言葉ですね。

2009/07/13 (Mon) 21:59 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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