太陽みたいな人

以前住んでいた界隈へ行った。ボローニャ市内の旧市街から歩いて10分と掛からない界隈だ。久しぶりに行った訳ではない。引越した後も時々、以前住んでいた家の近くの中華料理店に足を運んでいるのだから。けれども中華料理店へ行っては、ああ、美味しかった、お腹が一杯、と言いながら勘定を済ましてサービスで出してくれる梅酒を飲むとそれで終わりなのだった。中華料理店の道の向こう側には公園があって、其処には小さなジェラート屋があった。とても繁盛いていて、いつ見ても老若男女たちが沢山並べられた椅子に腰掛けてジェラートを頬張っていた。そんな様子を見ては、ううん、もうお腹に余裕がないから、とピアノーロへと引き返すのだった。しかし昨日は中華料理店が目的ではなかった。ちょっと近くまで来たのでジェラートでも、と思ったのである。このジェラート屋に最後に行ったのは2年と3ヶ月前のことだ。好みのジェラートを3種類選んで注文すると、店の女性が気前よく盛り付けながら笑顔で言った。また時々遊びに来てね。はて、彼女は私のことを覚えているのだろうか。そんな筈はない。確かによく買いに来たが、もう2年以上も前のことだ。しかもこんなに繁盛している店で、毎日沢山の顔を見ているのだから、覚えている筈がない。と思っていると、引っ越してからちっとも顔を見せてくれないじゃないの、と彼女が言うのだ。え、まさか私のことを本当に覚えているの? そう問うと勿論よと言わんばかりに頷いて山盛りのジェラートを手渡してくれた。大サービスだった。2,20ユーロで2,70ユーロ分をはるかに上回る盛り方であった。そうしてまるで先週も顔を合わせて何か話をしたかのように、私に色んなことを話し出した。そういえば私は彼女が大好きだった。彼女と彼女の相棒が2人で営むこの店がこんなに繁盛しているのは勿論美味しいからではあったが、この2人の人柄も大きく拘わっていた。背格好の良い、目鼻立ちの整った相棒はこつこつと働く真面目者という感じだ。めったに表情を変えないで淡々としているから初めのことは無愛想だと皆思ったが、後からこのくらい淡々としている方が良いのだ、と思うようになった。色男があまり愛想が良すぎると宜しくない、と言う簡単な理由からであった。そんな人がたまに笑うからまた良い、と。それで彼女は太陽みたいな人だ。陽に焼けた肌が如何にも健康的な、後ろにまとめた赤毛に笑顔が映える37歳の女性。特別美人ではないが魅力溢れる、顔を合わせたら話をしたくなるような人。レモン色のキャンディみたいな印象。そんな風に私はずっと思っていた。ふうん、そうなのか。彼女は覚えていてくれたのか。友達ではない。知人と呼ぶにもあまりに知らな過ぎる。けれど、こんな人が覚えていてくれたかと思ったら、何だかとても嬉しくなってきた。うん、そうね。また足を運んでみようかな。そんな気分になってきた。

コメント

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こんにちは。
また、再開なさっていて、こうして拝見できるのがとても嬉しいです(気がつくのが遅すぎ)。遠い地のボローニャで日々感じられることをまた伺える楽しさ、それをお伝えできたらなと思います。
レモン色のキャンディみたいな、太陽みたいな人。と彼女のことを語られていらっしゃいますが、このブログも静かな風が吹く気持ちのいい場所です。
どんどん暑くなるこれからですが、身体をお大切にお過ごしください。

2009/07/07 (Tue) 04:03 | 大庭綺有 #79D/WHSg | URL | 編集
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大庭綺有さん、こんにちは。そうなんです、あんなにきっぱり言っておきながら、いとも簡単に戻ってきました。自分の気持ちに正直に従ったらこんな形になりました。これからもお付き合いお願いします。
静かな風が吹く気持ちのいい場所、とは何んて嬉しい言葉でしょうか。有難うございます。これからもそんなブログであれば良いと思います。年々暑さに弱くなります。しかしその後にやって来る暗い季節を思えば、全く素晴らしいですね、夏というのは。

2009/07/07 (Tue) 22:55 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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