ピアノの音、歌声。

気温が急上昇のボローニャである。つい1週間前は朝晩の冷え込みに閉口していたというのに、夜になっても20度を下らない。生ぬるい風に混じって時折ひんやりした風が吹くと、気持ちよいと感じるようになった。寒い寒いと言ってコートの襟を立てて町を歩いていたのが遠い昔のことのように思える。何しろ暖かいのである。昼頃家を出た。バス停の近くの気温表示は24度であった。バス停でバスを待つ人々の装いはもう半袖だ。ちょっと気が早過ぎやしないかと一瞬思ったが、1分も経たぬうちに汗ばんで長袖のコットンセーターを着てきたことを後悔した。ボローニャ旧市街は一体どんな暑さであろうか。そんなことを案じながらバスに乗ってボローニャへ行った。バスを降りなくとも如何に暑いかが道行く人々の軽装で分かり、長袖のコットンセーターなどを着込んで来たことをもう一度後悔した。先々週まで暇そうにしていたジェラートの店は何処も大繁盛だ。店の外まで人が並んでいるのを見て、並ぶのが大嫌いな私はジェラートを諦めなくてはならなかった。ああ残念。こんな日は美味しいレモンのソルベットを食べたいのに。そんなことを考えながら歩いているうちにこんな所に来た。ボローニャ大学周辺の、学生らしき若者達を頻繁に見掛ける界隈だ。もう何年もボローニャに暮らしてくまなく歩いているというのに、初めて通る道であった。古い町並み。古い窓。古い扉。こんな所があったなんて。そんなことを考えながら道の真ん中に突っ立っていたら、何処かの窓からピアノの音、それに続いて歌声が聞えてきた。ポロン、ポロンとピアノのいい音を響かせながら英語の歌詞を口ずさむ男性の姿が目に浮かんだ。時々途切れながら、また後に続く。ふと、昔ラジオでよく聞いたビリー・ジョエルの歌を思い出した。ニューヨークの歌だ。姉が好きで聴いていたこの歌からいつの間にか沢山のことを感じるようになったらしい。ニューヨークを見たことはなかったが、この歌を聴いていると目の前にハドソン・リバーの流れる様子が見えるような気分になった。アメリカに暮らし始めるとこの歌の気持ちが良く分かるようになり、嬉しい時と悲しい時にはこの歌を口ずさんだものだ。ピアノの音が止まった。どうしたのだろう、なかなか良かったのに。暫く窓の下で待ってみたが、どうやらあれで終わりらしい。もう少し聴きたかったな。そんなことを言いながら、渇いた喉を潤すレモンソーダを求めてバールへと歩き出した。

コメント

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こちらはなかなか雨季に入る様子もなく、レモンソーダでのどを潤したくなるような乾燥した暑い日々です。ビリー・ジョエル でニューヨークといえば"New Your State Of Mind"を思い浮かべてしまうんですが、私はこの曲が大好きなんですよ。3年ほどまえにこの曲が入ったLPを偶然見つけて買ってしまいました。

2009/05/10 (Sun) 17:26 | Pfgia #79D/WHSg | URL | 編集
No title

Pfgiaさん、雨季にはもう少し待って貰いましょうか。レモンソーダを飲みたくなるとイタリアは初夏ですよ。覚えているでしょう? ビリー・ジョエルのはまさに"New Your State Of Mind"で、歌詞を辿っていくと自分の人生に重なることが幾つもあります。もっともこの歌がラジオから頻繁に流れていた頃は、そんなことまで考えたこともなかったし、まだ自分との共通点もありませんでした。Pfgiaさんでもこの歌が好きと知って嬉しくなってきました。

2009/05/10 (Sun) 22:28 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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