匂いの記憶

今朝は張り切って起きた。今日は良い天気の予報が出ていたからだ。窓から外を覗くと鼠色の雲が空を覆っていたが、きっとじきに晴れるに違いない。さあ、するべき事をさっさと終えて外に出よう。そう思って土曜日にしてはあまり時間を掛けずに朝食を済ませると、軽快に立ち上がった。正午を回った頃、家を出た。私が毎土曜日に外出しては町を散策するのを知らない人が聞いたらきっとこんな風に思うだろう。結構暇なのねえ。それともこんな風かもしれない。他にすることが無いのかしら。もし、面と向かってそう聞かれたら、うん、そうなのよ、と笑って答えるだろう。けれど本当のところはちょっと違って、私にとって散策はとても大切で、その為に時間を確保しているのだ。時には用事が沢山詰まっていたり、友人達と一緒に過ごすために散策できないこともある。だから、そうでない時は散策を第一優先にしていると言ったら正しいかもしれない。ボローニャ旧市街行きの96番のバスの中でそんなことを考えていたら、初めて気がついた。思えば幸せなことである。第一優先に出来る環境に居ること、周囲の理解があること。これは誰にもあるようで誰にもあるものではないのかもしれない。乗客が疎らにしか居ないバスの一番前のひとり席に座りながら、なんだ、案外私は幸せなのかもしれない、と思ったら急に可笑しく思えて腹の底から笑いがこみ上げた。多分、私の顔は笑っていたのだろう。運転席の上に取り付けてある大きなバックミラーを通じて、若い運転手が少し驚いた顔をして私を見ているのが見えた。このバスの終点はカヴール広場。けれども何時も此処まで行かずに毎回違う場所で途中下車だ。その日の気分で散策ルートを変えるためである。昼休みで店が閉まっている時間帯だからなのか、町を歩く人の姿は少ない。こんな時間が私にとっては丁度良い。左に曲がって突き当りを右に曲がる。其処を真っ直ぐ200mも歩けばVia castiglioni に辿り着く。私の密かな気に入りのルートである。ところが歩き始めて少しするとぱらぱらと雨粒が落ちてきて、じきに纏わりつく様な冷たい雨が本格的に降り出した。ポルティコを求めて大急ぎでVia castiglioni まで走った。がっかりだった。雨が降るなど一言も言っていなかったではないか。そう思いながらそろそろとポルティコの下を歩き出すと、ふと匂いがした。懐かしい匂い。それは乾いた土や路が急に雨に濡れたときに立ち上る匂い。私はこの匂いが大好きだ。確か高校生の時もそんなことを友達に話した記憶がある。そういえばアメリカで共に暮らした女友達にも話した覚えがある。ああ。急に色んな記憶が蘇った。懐かしくなって歩く足を止め、深い溜息をついた。すれ違う人たちが不思議そうに見ているのも構わずに。

コメント

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 懐かしい匂い、、、記憶に残っているのはまだヘルメット着用義務のなかった50ccスクーター全盛の頃のイタリアでしょうか、、、あの甘い、それでいて体に悪そうな(笑)2ストロークバイクの吐き出す煙の匂い、、べスパたちを目の前にして、、、ああイタリアに来たのだ、、と実感したものです。

 でもこの時期、花の匂いと相まって空気中に停滞するあの匂い、、いいですよね。散策中に漂う香りが自分も大好きです。

2009/04/20 (Mon) 11:30 | レオナルド #79D/WHSg | URL | 編集
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レオナルドさん、こんにちは。まだヘルメットが義務でなかった頃・・・懐かしいですね。信じられないけれどそういう時代があったんですよね。それも数年前まで! 私はイタリアのオートバイというと一番思い出すのがエンジンをかけるのにペダルを漕ぐ、チャオと言う名前のオートバイです。あれはいつの間にか姿を消しましたが、ちょっと残念だと思いませんか。
散策のときに漂っている様々な匂いで色んなことを思い出すのは私だけではないようですね。

2009/04/21 (Tue) 11:22 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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yspringmindさん

ブログを復活されたこと、遅まきながら(いつも・・・)、今日知りました。
「il paesi - provincia di bologna+」も、
さらにボローニャのことが知れてとてもいいですね!
先日、hiro_blさんのブログで、ボローニャに「San Luca」という教会が
あることを知りました。
Lucaは、うちの愛犬の名前・・・。”これはいつか行かないと!” と、
またボローニャに対する想いが深まりました。またよろしく!

2009/04/22 (Wed) 00:41 | bluemillefeuille #79D/WHSg | URL | 編集
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bluemillefeuilleさん、こんにちは。優柔不断で恥ずかしい話ですが、そうなんですよ、復帰しました。またお付き合いくださいね。そしてもうひとつのページのほうでボローニャの町を案内しますので何時かボローニャに来られる時の参考にして下さったら嬉しいです。
San Luca は美しいです。教会もよいですが其処に辿り着くまでの経過を車であっという間に上ってしまうのはあまりに惜しい、息を切らせながら長い回廊の下を歩いて教会に辿り着くのがよいのです。愛犬の名前がLuca とは偶然でしたね。hiroさんも言ってましたが飛行機の中から遠くにこの教会が見えると、ああ、ボローニャに帰ってきた、と実感する、ボローニャの人たちには切っても切り離すことの出来ないものなのですよ。さあ、これで益々ボローニャに来たくなりましたね?

2009/04/22 (Wed) 23:21 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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