美味しいチョコレートが欲しい日

浅い眠りだった。外は強い風雨で日除け戸が耳障りな音を立てていた。時折大きな雷が鳴っては、はっと目が覚め、そしてまた眠りについた。そうして夜が明けると雨はまだ降り続けていて、それでなくとも気分の乗らない月曜日が更に憂鬱な足取りで始まった。いつもは川底に張り付くようにして水が流れている冴えない川が、ごうごうと音を立てて流れていた。濁流だ。水位が異常に高く、これ以上雨が降ると溢れてしまいそうだった。そうして昼には晴天になり、気がつくとまた雨が降り、今日は何度天気が変わったのだろう。雨が降る度にあの川が氾濫しやしないかとこっそり心配した。晴れては喜び降っては心配しの繰り返しで疲れた一日だった。こんな日は美味しいチョコレートが欲しい。最近、とても久し振りにganberini に入った。一頃かなり足繁く通っていた美味しい菓子の店である。それがちょっとしたことが気になって、行かなくなってしまった。ボローニャにはこの手の美味しい菓子と美味しいカップチーノを頂ける店は他にもあるので残念だけどまあいいか。そんな風に思っていたのだ。そのganberini の前を久し振りに通ったら、ショウウィンドウに美味しそうなチョコレート達がその前を通る私に手を振っていた、ように見えた。ふと足を止めて覗き込んでみると、益々美味しそうである。店内をぐるりと見渡すといつもより混雑していなかった。それでは、と9ヶ月振りくらいにガラス戸を押し開けて店内に踏み込んだ。行儀よく並んでいる小粒の苦めのチョコレートをふたつ、皿の上に乗せて貰ってカウンターへと向かう。カップチーノを注文すると、店の人が笑いながら言った。久し振りですね。礼儀正しくて感じのよい、多分この店ではベテランであろう男性が、もう何ヶ月も来なかった数多くの客の一人の私の顔を覚えていた。帽子のせいかもしれない。この店に足繁く通っていた頃、私は色や形を変えながらも常に帽子を被っていたから。そうなんです、久し振りなんです。そう返事をしながら不思議な気持ちになった。人は見ていないようでちゃんと見ている。気が付いていないようで気が付いているのだ。それは多分色んなことに言えるだろう。ちょっとしたことでこの店を離れた私だが、久し振りに来たことを嬉しく思った。ふたつ目のチョコレートを口に放り込みながら、また来てみようと思った。

コメント

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2008/12/02 (Tue) 15:55 | # | | 編集
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鍵コメさん、一頃遠ざかっていたこの店ですが、自分を覚えていてくれる人がいるのは嬉しいもので、そんなことからまた時々行こうかなと思うようになりました。単純でしょう?ところで帽子姿を褒めて下さって有難うございます。褒めて貰えるのはいつだって嬉しいものですね。はーい、今度美味しいものご馳走しますね。鍵コメさんも風邪など引かないように気をつけてくださいね。

2008/12/02 (Tue) 22:33 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
No title

お店の人の一言は嬉しいですね♪
気になっていたことも、ふき飛んじゃいましたか?

とっても美味しそうなチョコレートたちですね。
私も食べたくなりました~。

2008/12/06 (Sat) 07:29 | ako_bishoku #79D/WHSg | URL | 編集
No title

akoさん、こんにちは。大衆の中の小さな一人なのに覚えてくれていたことは私にとって驚くべきことで、嬉しいことでした。暫く毛嫌いしてたんですが、もうどうでも良くなってしまいました。と言うことでまた時々行くことにします。チョコレート、これは魔物です。このショーウィンドウの前には何時も観客が一杯です。

2008/12/06 (Sat) 17:48 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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