好きなこと

歩くことが好きだ。乗り物に乗っていると急に止まることの出来ない場所でふと足を止めることが出来る徒歩が趣味のひとつだ。これを趣味と呼ぶのは相応しくないかも知れないけれど、少なくとも私の中ではちゃんと趣味のカテゴリーに納まっている。歩いては足を止め、納得いくまで観察する。擦れ違う人達の会話に耳を傾けてみたり、時には面白い被写体を見つけては小さなカメラに収めてみたり。ただ歩くだけなのにそれに伴う楽しみが沢山あることを、歩くのを億劫がる相棒は知らない。兎に角イタリアの旧市街の交通規制は大変なもので、車でうっかり入ろうものなら後から大きな罰金を求めるレターが届く。土曜日だけはボローニャ旧市街の一部に車で入いる事が出来るけど、一方通行ばかりでいつまで経っても目的地に着けなかったり。少なくとも、あ、ここで止まりたいなんて発想はご法度だ。だから徒歩が良い、と思う。昔、もう大昔に私は絵を描いていた。絵を描くのを止めた後、言葉や写真で描写することを覚えた。最も拙い描写力で自分でもじれったくて仕方がないが、情熱を失い絵筆と上手く付き合うことが出来なくなった今、そのふたつだけが私が得た方法なのだ。文字を綴るのは父親の夢だった。子供の頃、私の家には沢山の真新しい原稿用紙が沢山あった。父は何か書きたかったのだと思う。ひょっとしたら実際何かを書いていたのかもしれないが、少なくとも私は書いた原稿を目にしたことはなかった。黄ばみ始めた沢山の原稿はいつの間にか私の所有物となり、10歳前半の微妙な年頃になると夢中になって沢山も文字を書き連ねた。何を書いたのか思い出せない。しかしそうすることで確かに自分を表現しようとしていたのだと思う。父がしなかったことを私がした、そう言ったら過言だろう。だって父はもっと大そうなことを書こうとしていたのかもしれないから。単に好きなのだ、書くことが。そういう視点から言うと写真もまた、単に好きなのだ。深く学んだこともなければ真剣に取り組んだこともない。好きなことは沢山あるくせに、絵筆を置いて以来何一つ真剣に学ぼうとしなくなった。全てが程々の単に好きなレベル止まりだ。それは私の悪い点のひとつだと承知しながら。ある日、遠方の友人からカメラが届いた。私がもう何年も前から望んでいたデジタルの、一眼レフカメラだった。良い写真を撮ってください、と文末に書かれている手紙を読みながら、大昔に失った一種の情熱のようなものが生まれつつあるのを感じた。夢中になってみようか。そうしたら私の生活も、そして生活観も変わっていくのかもしれない。友人のカメラを持って町に出よう。今までとは少し違う、積極的な気持ちをポケットに突っ込んで。いつかこれはという写真を撮って、友人の厚意に感謝できるように。

コメント

No title

 自分は働いているうちにカメラに対して取り組んでみよう、、という情熱が生まれた、、、というところでしょうか、そういう意味では恵まれていると思います。カメラ繋がりでできた大切な友人も、、、でも肩肘張らずさらっと撮っているようにみえるあなたの写真が好きなひとがたくさんいると思いますよ。

 いつかボローニアで競演を(笑)

 

2008/10/27 (Mon) 07:44 | レオナルド #79D/WHSg | URL | 編集
No title

レオナルドさんは仕事を通じてそういう情熱が生まれたんですか。それは私から見てもとても恵まれてると思いますよ。している仕事に情熱を感じるものがある、それはありそうでなかなかないケースなのではないでしょうか。写真を撮る作業が好きです。写真を見るのも好きです。今回私には勿体無いくらいのカメラを手にして初めて解かったことは、機材がよければいい写真が取れるとは限らないってことです。沢山学ぶことがありそうです。ちょっと初心に戻って見ます。でもあまり頭でっかちにならずに自由に写真を取る心、忘れないようにしなくては。私は素人なんだもの、その気持ちがなくして写真は撮れません。すごく初歩なこと、今度レオナルドさんに質問しても良いですか。

2008/10/27 (Mon) 19:27 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
No title

私もレオナルドさんの言われる通りだと思います。自分の持っている良い世界から出ようとする前に、まず自分の世界をさらに良くしてゆくために新しい機材が必要だった、と考えたらどうでしょうか。あなたの写真も、あなたが最初に言っているように、「じぶんの目の高さで語る雑記帖のようなもの」だったら素晴らしいと思います。

2008/10/31 (Fri) 01:59 | september30 #79D/WHSg | URL | 編集
No title

septemberさん、私は今まで自分の持っている良い世界について考えたことがありませんでしたから、その一言は大変嬉しくも驚きであります。そしてもうひとつ、"自分の視線の高さで語る、雑記帖みたいなもの" であることを忘れてしまうところでした。私は私らしく肩肘張らずに淡々と行くのが良いようです。思い出させてくれて本当に有難う。

2008/10/31 (Fri) 22:33 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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