occhiobello

ボローニャからフェラーラも飛び越えて北上するとポー河がある。幅の広い河だ。イタリア人とこの河を渡ると必ず誰もが言う。これがポー河。その言い方がまるで自慢しているように聞こえるので、私はいつも声を立てずに笑ってしまう。そのポー河を越えるともうヴェネト州で、ヴェネト州に入って初めにあるのがocchiobello という名の町だ。私はいつもこの町を通り過ぎながら、なんと素敵な名前の町なのだろう、と感心していたのだ。occhiobello、美しい目と直訳したら間違っているだろうか。しかし私にはそんな風に聞こえる涼しい響きのある名前だ。もう少し先へ行く予定だったが、路上に掲げられた町の名前に誘われて初めてここを訪れた。町に入ると一軒家が行儀よく立ち並んでいた。新しい町のように見えた。古いものが好きな私だから期待を裏切られたような気がしたが、どんな町にも必ず何か古いものがあると信じて先へと進む。整備された大通りを右に曲がると道幅が急に狭くなり右や左に湾曲するその道を進んでいくと、あった。san lorenzo 教会があった。教会はかなり古くてどうやら既に300年が経っているらしかった。教会の正面に立って眺めると何かおかしい。おかしいが何がどうおかしいのか解からなくて、教会の周りをぐるりと歩いてみた。教会上部はかなり古く、歳月を感じるのだが地上から1m、2mの部分は妙に新しい。内部も同様だった。床から高さ2mくらいまでが真新しいとは言わずも、半世紀も経っていないような気がしてしっくり来ない。いいや、気に食わないといったほうが私の心情にぴったりだった。納得がいかない、そんな顔をして教会を出た。教会の前には小さな広場。広場と呼ぶには小さすぎるかもしれなかった。突き当りには青々とした芝生に覆われた高い防波堤。どうやらその向こうには例のポー河が流れているらしい。ぶらぶらと歩いているとある建物の壁に忘れてはいけないことのひとつ、とでも言うように文字が刻まれていた。このあたりは1951年にポー河の氾濫により水の災害があったと書かれていた。ちょうどこの高さまで水浸しになったと印されていたその高さが、教会の新しい部分と一致して、小さな未解決の謎が一瞬のうちに解けた。古い家がない訳も解かった。それにしても随分ひどい水害だったようだった。戦争が終わってほっとした後の水害は人々を大そう苦しめたに違いなかった。この町に教会の他にこれと言って見るところはなかった。それでいて私がこの町を何時間もかけて散策したのはそんなことを知ったからだった。どんな小さな町にも歴史がある。そんなことを思いながら当てもなく歩いた。

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Comment

ひろぽん

例が適当かわかりませんが、ベネチアの建築物は1階が12世紀、2階が13世紀、3階が14世紀みたいに増築されている建物があるそうです。
法政大学教授の陣内秀信氏の著書に記してありました。
氏の書籍はずいぶん読みました。イタリア旅行に必携の書ですね。
  • URL
  • 2008/10/20 04:14
  • Edit

burts

あぁ、
なるほど!!

川の氾濫の痕だったんですねぇ・・・

yspringmind

ひろぽんさん、イタリアには確かにそのようにして増築していくことがあるようです。この教会の場合は上が古くて下が新しい、と言うことで逆の思考になりますけど。私も陣内秀信氏の本、読んだことがあります。題名は忘れてしまいましたが南イタリアの本でした。イタリアは土地の歴史と合わせながら旅するととても面白いと思います。

yspringmind

burtsさん、川の氾濫ってこんなに水に埋まってしまったの?と驚くほどの高さです。今は夏には干上がってしまうこともあるポー河ですが前は水位の高い豊かな河だったそうです。occhiobello なんて素敵な名前がついているのにまったくの災難でしたね。

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  • 2008/10/21 14:04

yspringmind

鍵コメさん、メールのほうに返答しましたよ。これからもよろしくお願いします。

ちっちょら

とってもご無沙汰しています。お元気ですか?
前の記事にコメントさせてもらっていいのか分からないのですが・・。
occhiobelloに立ち寄る日本人、なかなかいないのでは!と思わず。
Ferraraのお城のそばにも、ポー河の氾濫時にどこまで水位が上がったかを
示す壁があるのですが、びっくりするくらい高いです。
あの辺り、通勤圏内ということで新しい家もどんどん建ってますが
お値段は抑え目。あまりポジティブなイメージがないようです。
私も最初に名前を聞いた時は素敵~と思いましたが。笑

yspringmind

ちっちょらさん、こんにちは。元気ですよ。
occhiobelloに立ち寄る日本人はあまりいないと思いながら、私たちみたいに素敵な名前に誘われてふらふらと立ち寄る人が案外いるのではないかと睨んでます。でも、本当に何にもないんですよね、ここ。客気は余りありませんでした。
ferraraのお城の近くにもポー河の氾濫時にどこまで水位が上がったかを示す壁があるんですか。それは知りませんでした。ferraraはとても気に入っているので近いうちにまた行ってみようと思いますから、その際にはその壁を探してみますね。情報有難うございました。

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