水面

風が吹いている。家の前の大きな樹がざわざわと音を立てながら揺れている。それでいて温かい。ちょっと奇妙な晩である。こんな晩は早く寝たほうが良い。目を閉じて無心になってさっさと眠りについたほうが良い、と思う。それなのに古い写真を引っ張り出して、一枚一枚眺めだしたら止まらなくなった。ヴェネツィアの写真だ。そのうち私はその一枚に辿りつき、ああ、もう3年も経ったのかと言いながら一生懸命あの時の自分を思い出していた。揺らめく水面を眺めながら、私は一人ぼっちだった。それでいてちっとも寂しくなかったのは、この町があまりに美しかったからに違いない。人の居ないほうへと意識的に足を運んで偶然見つけたこの場所に、何をするでもなく佇んで、そうして数枚の写真を撮ったのを覚えている。写真を見つめているうちに久しぶりにこの町を訪れたくなった。そうだ、雨期が始まる前に、空が青いうちに。当てもなく迷路のような路地を歩いてみるのもたまには良い。

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Pfgia

写真の風景にすぅっと吸い込まれてしまいそうです、ゆらゆらと...
ヴェネツィアはまだ見ぬ土地なんですが
海に浮かんで暮らすってどんな風なんでしょうね。
普通に家があり、庭には草木が茂り... そこには生活があり
色んな人の人生があるわけで... 不思議だなぁ。

ひろぽん

rio de san pantalon と rio dele muneghteの交わるあたりでしょうか?
グーグルマップで検索してみたら界隈の様子が見られました。
便利ですが、どこかもの悲しい時代ですね。

yspringmind

Pfgiaさんはヴェネツィアへ行ったことがありませんでしたか。残念。旅行者がひしめいている点で私はこの町を嫌いですが、一旦人の波から逃れると大好きです。魔法をかけられた町、訪れる人に魔法をかける町、です。まだ2度しか訪れたことがなく、二度とも快晴でしたから水面に空が映って美しく、ちっとも飽きない、水面を見ているだけでも。水のある町に暮らすのは色んな不便もあるだろうけど、一度この町に腰をすえて生活してみたいものだ、と訪れるたびに思います。

yspringmind

ひろぽんさん、rio de san pantalon と rio dele muneghteの交わるあたりですか!有難うございます。この情報を元にもう一度足を運んでみようと思います。すごいですね、現代の情報というのは。入らない情報なんてひとつもないって感じですね。それでいて、やはり私もひろぽんさんに同感です。便利すぎてちょっと悲しいかもしれません。

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