栗の存在

今日はたったの火曜日だ。昼を回った頃から空はどんよりと鼠色の雲が垂れ込めて、今にも雨粒が空から落ちてきそうだ。寒くはない。しかしこれから寒くなるよ、と空が訴えているような気がする。10月。この季節になると街角に焼き栗屋さんが出現して、辺りに香ばしい匂いを放ってくれる。昔から栗が好きだった。日本のつやつやした大粒の栗をふたつに割って小さな匙ですくって口に放り込む。仄かな蜜の味すらする日本の栗は世界で一番美味しいと信じて疑わなかった子供の頃のことだ。私は姉と一緒に過ごすのが好きだった。4歳と7ヶ月年上の姉にとって弱っちい泣き虫で愚図な私は足手纏いであった筈だ。姉は何をさせても優等生で皆から信頼されて人気があった。小さな私はそんな姉を誇りに思いながらも時には比較されてやぶへびに思ったに違いないが、兎に角姉と過ごす時間が好きだった。夏には一緒に樹に登り、蝉や甲虫を採集した。近くの小川へざりがにを捕まえに行ったこともあった。春には野の花を摘むでもなく、山菜を沢山摘んで母に土産を持ち帰った。今思えばとてもいじらしく可愛かったと思が、多分山菜御飯が食べたかったのだろう私達は、と思う。秋になると母が栗を茹でてくれた。茹で上がった栗を母が熱い熱いと言いながら包丁で縦割りにした傍から、もう待てないと言わんばかりに横から手を出して匙ですくって口の中に放り込む。良い時代だった。恐らくは何かしらの悩みが子供ながらあったに違いないが、少なくとも今の私には楽しかったことしか思い出せない。私の大切な思い出のひとつだ。あの頃日本の栗が世界で一番と思っていた私は、いつの間にかイタリアの不揃いな全然ぴかぴかしていない栗が好きになった。爆発防止の為に一本の筋をナイフで入れた栗達を熱い鉄板の上でゆっくり炒る。香ばしい栗の良い匂いがするまで何度も何度も栗を転がしながら炒るのだ。先日ボローニャ旧市街で焼き栗屋さんを一軒見つけた。ボローニャで一番早く出現する焼き栗屋さんだ。ここは一等地なのだ。もう少しすると焼き栗屋さんが3軒も並ぶだろう。そうしたら秋も焼き栗も本番で、広場に面した石段に腰掛けて栗を剥く人達を見掛けるようになる。母親に栗を剥いて貰って頬張る子供達もいれば、恋人同士が肩を並べて栗を無心に剥いていたり。他国からの若い旅行者がひとり、広場に座って栗を剥く姿もある。そして私は散策しながら栗を剥いては食す。秋に栗。ボローニャの町にとって栗の存在は意外と大きい。

コメント

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こんばんは~。確かにね、秋のヨーロッパー= 焼き栗ですよね。私はなぜかパリのルーブル美術館界隈を思い出します。たぶん、始めて焼き栗の大きな窯をみたからかな。去年の今頃Vicenzaに帰ったとき、Tonezzaの叔母の家をたずねました。小さな村でね、焼き栗フェスティバルだったの。大きな揺れる窯にガンガン栗を入れて、娘は初めて見るもんだからもう目がまんまる。できたてのクリをくれるんだけどもちろん売り物よ、だから試食は1、2個。でも娘はそうとう気に入ったらしく、窯が動くたびにこぼれおちるクリを拾ってはおばあちゃん(私のSuocera)に向いてもらってました。なつかしいな~。栗の味も、イタリアの空気も。

2008/10/07 (Tue) 22:34 | ogosyu #79D/WHSg | URL | 編集
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 栗の季節になりましたね。 私も先日、家で焼き栗をしました。
栗といえば母が茹でてくれる大きな栗が大好きで、毎年運動会にたくさん茹でて持ってきてくれました。だから、栗と言えばなんとも懐かしい、秋の風景が目に浮かびます。 ここに来て3年目の秋を迎え、私にとっても焼き栗が定着しました。初めて義父が焼いてくれた焼き栗は、それは香ばしくて、こんな美味しい食べ方があるんだ。と、夢中で口に入れました。(笑)
栗の味は、いつもどこか懐かしくて、心を温めてくれる気がします。

2008/10/08 (Wed) 08:18 | siena916 #79D/WHSg | URL | 編集
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ogosyuさん、そうです、秋の欧羅巴といったら焼き栗です。私がボローニャに来る前までは焼き栗といったらやはりフランス、しかもパリというイメージがありました。どうしてなんでしょう、行ったこともないのにね。焼き栗屋さんの前を通ると温かいので冬などは買いもしないのに近くによって温まってみたり。色んな良いことがあります、焼き栗屋さんは。小さな子供が大人に剥いて貰っては栗を頬張る姿は可愛いですね。彼らが大きくなったとき、それが秋の思い出として残っているといいなあ、と思います。

2008/10/08 (Wed) 15:47 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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sienaさん、え、もう焼き栗しましたか。うちはまだなんですよ。そういえば茹でた栗を運動会で食べましたね。すっかり忘れていましたよ。楽しかったですよねえ、運動会。ああ、懐かしい。sienaさんもお義父さんが初焼き栗をご馳走してくれましたか。私もそうだったように記憶しています。私の義父も栗が好きで秋になると栗拾いに行ってはご馳走してくれました。彼は昔の人なので栗拾いやキノコ狩りが秋の楽しみだったようです。逝ってしまった義父はもしかしたら空の上でうずうずしているのかもしれないですね、さあ、栗拾いだ、さあキノコ狩りだ、といって。
栗ってただ美味しいだけじゃなくて、家族に匂いがする。そんな気がします。

2008/10/08 (Wed) 15:56 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集
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2008/10/09 (Thu) 08:07 | # | | 編集
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鍵コメさん、そうでしたね、色々難しかったんでしたね。鍵コメさんの気持ち、とってもよく解かるけど、多分私も同じようにしたと思うけど、心地よい間隔を保つというのが正解かもしれませんね。でもせっかく栗の美味しい秋だから、みんなで栗を囲んで休みの日と過ごすなんていうのも良いかもしれない・・・って口で言うのは簡単だけど。

2008/10/09 (Thu) 22:17 | yspringmind #79D/WHSg | URL | 編集

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