赤いスカーフ

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朝目を覚ましたら既に空は明るくて、あらあら、随分と朝寝坊と思って飛び起きたものである。しかし別に朝寝坊ではなく、いつもの週末の起床時間。ただ、日が昇る時間が早くなったのだ。2月だけど、確実に自然の法則にしたがって春へと向かっているのを感じだ。平日は私も相棒も外に出ずっぱり。だから週末の昼間に家じゅうの窓という窓を開け放って空気を入れ替えるのが、ひとつの喜び。夜には出来ないこと。外の湿度を家の中に迎え入れるようなものだから。昼間の、太陽の匂いのする空気を家の中に入れるのは、幸運を招き入れる感覚とよく似ている。但し、うっかりすると体が冷えるので、私は家の角っこに避難する。そんな私をよそに猫は悠々とテラスに出て、まあ、小鳥さん、こんにちは、などと言っているのだろうか、お喋りに忙しい。悪いウィルスのせいで、外に出るのが億劫になってしまった私は、週末なのに家にばかりいる。こんなに家に籠もったのは初めてのこと。僅かな収入で暮らしていた頃も、気分が塞がっていた時代も、家に籠もった記憶は無く、むしろそれだから外へ外へ向かったものだ。私ばかりではないだろう。外にあまり出たくない人は沢山居るに違いない。早くこの騒ぎにピリオドを打つことが出来るといいと思う。誰もが明るい太陽の下へと自由な気持ちで飛び出せるようになればいい。

クローゼットの中を随分と整理した。好きだけれど似合わなくなったもの、サイズがしっくりこなくなったもの、好まなくなったものを取り出して、行くべくところに送りだしたが、ひとつだけ困ったものが残った。大好きで手放したくないコート。特に素材は素晴らしく、これを手に入れることが出来たのは随分と運が良かったと今も思っている。ただ、何となく自分らしくない。色々考えてみたところ、それが袖口のデザインであることに気が付いた。いや、もともとそう思っていたのだが、どうすることもできないと目を瞑っていたのだと思う。ところがこんな風にしてクローゼットの中を整理してみると、その袖口が大いに気になりだした。もう目をそらすことは出来まい。かと言ってもちろん手放す勇気は微塵も無い。さあ、どうする。どうする。と自分に問いかけて思いついたのが、旧市街の仕立て屋さんだった。そうだ、彼女に相談してみよう。旧市街の2本の塔より少し手前のポルティコに在る仕立て屋さん。衣類を仕立てることもすれば、お直しもする、ブラジル出身の女性の店。長いこと何処かのアトリエで働いていたという彼女の技術もセンスは抜群で、ちょっと話せば全部分かるといった類の人。一年ほど前に子供を産んで復帰したが、土曜日は休業だし、営業時間も短くなって足を運び難くくなった。先日は閉店ぎりぎり前に駆け込むことに成功して、近況報告やら何やらしてから例のコートを着て見せた。ほらね。此の袖口が私らしくないと思うのだけど。と話を切りだした。私はもっと・・・と言いかけたところで彼女が言葉を挟んだ。辛口なデザインが好きなんでしょう? やはり彼女はよく分かっている。私の好みをよく分かっている。ならば話が早い。何とかしてデザインを変えることは出来るだろうか、しかも袖丈はかえることなく。私達は幾度も表地と裏地を見比べて話し合い、終いには、もういい、貴方に任せるから、と言ってコートを彼女に託した。出産後、仕事が減るのではないかと案じていた彼女の心配をよそに、減るどころか人をひとり雇うほどになり、更には店が狭くて困ったことになったらしく、同じ界隈の、道の向こう側の広い場所に移るのだと彼女は嬉しそうだった。今度の店は試着室がもっと広くてね、作業台が大きくてね。彼女も、そして彼女の元で働く女性も興奮していたところを見ると、よほど良い場所なのだろう。其れで引っ越しをするのでコートは直ぐに仕上げられないとのことだが、心配はない、此のコートは3月まで着ることがないからね、と手をひらひらさせて私は店を後にした。そういえば代金が幾らになるかを訊かなかった。まあよい。上手に仕上がればそれでよい。
それで現在私は冬の終わり、春の始まりのことを考えていて、シンプルな暗い色のコートやジャケットに華を添えるようなシルクのスカーフを探している。何時もならば店に行って見せて貰うところだけれど、何しろ現在引き篭もっているので、想像ばかりが膨らんでいく。赤いシルク、典型的なバンダナ柄のスカーフがいい。赤という色は今まで私の範疇に無かったけれど、最近急に気になりだしたのである。兎に角、其れを首にキュッと巻いたら、短い髪に良く似合うのではないだろうかと思うのだけど、さて、そんなものはどの店に行けば手に入るのやら。

記録的な、暖かい1月だったらしい。1月が記録的ならば、引き続き記録的な暖かい2月になるだろう。本当かどうか疑わしいが、話によれば週明けは18度にもなるらしい。ボローニャの暮らしも長くなるがこんな2月は初めてのことだ。其れもローマへ行けば話は別だ。あの街の過ごしやすい冬は、ボローニャと比較すること自体間違っていると思うから。




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