食卓の常連

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不機嫌な空の土曜日。大雨は降らず、目を凝らさなければ見えないような霧のような雨が降る一日。傘を差して歩く人は居ないが、しかし其れも長く歩けば帽子もコートもしっかり濡れてしまうに違いない雨。アスファルトが濡れて黒く光っているのがその証拠。其れほど冷え込んでいないのに寒く感じるのは湿度のせいかもしれない。昨夜の薬が効いたのだろう、今朝は少し調子が良い。しつこい頭痛とも、じきにさよなら。こういうものは初期に解決しておくのが良いと思う。

昨夕、仕事帰りのバスに乗りこんだら、立っていた人がひょいと振り向いて私に挨拶を投げた。こんばんは、シニョーラ。見れば見覚えのある人。じっと考えていたら、相手の方から名乗り出た。近所の青果店の、と。ああ、そうだった、近所の青果店のバングラ人。見れば美人の妻と小さな子供が椅子に座っていた。様子を窺う限り、店を数時間閉めて家族で買い物に出掛けたらしい。子供の靴でも買ったのだろうか、靴屋の袋が目に入った。店の店主は夫だが、私が感心するのは妻のことだ。彼女が選ぶものにははずれが無い。林檎にしても桃にしても、そしてアボカド。随分前に今夜食べるアボカドを選んでほしいと頼んだところ、彼女はひとつひとつ手に持って、これがいい、今夜食べるならこれよ、と言って袋に入れてくれた。果たしてそのアボカドは全くの食べ頃で、丁度良く冷えた白ワインの供に用意した薄く切ったスモークサーモンと一緒に美味しく頂いたものだった。アボカドというのは匂いがしないので選ぶのが難しいというのが私と相棒の意見。それを見事に選び出した店主の妻に対する私達の評価はとても高い。さて、私は少し手前で下車して他のところに立ち寄ってからバングラ人の青果店に行くと、店主が店を開ける準備に明け暮れていた。本当は店は閉めないのだが、妻がどうしても一緒にとのことで数時間店を閉めたのだと店主が照れた。美人の妻にべた惚れなのだろう。確かに彼女は美人だから、私の目から見ても。最近何時も購入する林檎とトロペア産の玉葱と、季節外れだがダッテリーニと呼ばれる小さな甘いトマトと、そしてアボカドを注文した。今夜食べる用のアボカドと頼んだけれど食べ頃のは無いようだった。その中でも一番熟れているのを選んだけれど、4日後くらいが食べ頃というのが店主の見定めだった。代金を受け取りながら店主が訊く。シニョーラはアボカドをいつも買っていくけれど何故なのか、と。何故と訊かれても、それは勿論美味しいからで、これをサラダにしたり、スモークサーモンと一緒に頂いたり、食前酒と一緒に頂くカナッペに使ったりペーストにしたり、と説明しながら気が付いたのは、店主がアボカドの美味しさを知らないのではないかということだった。案の定、店主はアボカドを食べたことがなくて、それでよくも食べ頃が分かるものだと驚いた。あなた、食べてごらんなさいよ。これは日本では森のバターなどと呼ばれていてね、というと、シニョーラは日本人なんですかと返されて開いた口が塞がらなかったが、その件に関して追及するのが面倒くさくなり、はいはい、どうも有難うと手渡された袋を受け取って店を出た。家に帰ってアボカドを取り出し、それを林檎と一緒にビニール袋の中に入れた。こうすれば少し早く食べ頃になるというのを何時か誰からか聞いたことがあるからだ。美味しくなあれ、と言いながら袋を棚の中にしまった。恐らく月曜日が食べ頃。数年前までアボカドを食べたいとも思わなかったというのに。好物とは言わないにしても、何時の頃からかアボカドがうちの食卓の常連になった。月曜日の食べ頃に向けて、ちょっと良い白ワインとスモークサーモンを用意するとしよう。

1月も残りあと一週間。2月に入れば謝肉祭が始まるだろう。ヴェネツィアでは様々な謝肉祭の催しが予定されているだろうから、少し前に街を悩ませた高潮がやってこないことを祈るばかりである。そして少々落ち込んでいるヴェネツィアに沢山の人が訪れて、やはりヴェネツィアは美しい、やはりヴェネツィアは素晴らしいと褒め称えてくれると良いと思う。それが、私のヴェネツィア、と勝手に呼んでいる私の願いだ。




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