魅力のひとかけら

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ボローニャから車を南に走らせた。一昨日のボローニャの祝日のことである。南と言ってもそれほど南ではなく、目的地はトスカーナ州のサン・ジミニャーノ近郊である。其処に気に入りの店があって、自然を満喫しながら車を走らせ、丘の上で美味しい昼食を楽しみ、時間があればその近くの町に立ち寄り散策、というのがその日の計画だった。

高速道路に乗った途端に目に入った。フィレンツェにほど近い辺りで渋滞が発生しているとのこと。しかし其れも私達が行く頃には解消されているに違いないなどと思って車を走らせていたところ、トスカーナ州に入らにうちに前方に長い列が出来ているのが目に入った。それで高速道路を降りた。其処から高速道路にほぼ並行して存在する山道を行けばよいと思って。しかしまあ、地図とは違って何と入り組んだ山道であることか。休憩しようと思いながらも幾つものバールをやり過ごしたのは、車をとめる場所が見つからなかったからだ。アペニン山脈に点在する小さな町もしくは村の中心にあるバールは活気があって興味をそそられたが、道が曲がりくねっているうえに細いときているから一時駐車をすることすら叶わなかったのである。そうしているうちにトスカーナ州に入り、細い道をひたすら下った辺りで、ようやく車をとめるスペースを見つけ、その前にある店に入った。バールというよりは、トラットリアにおまけのように付けられたカッフェのスペースだった。店はまだ準備中だったが、女主人が快く受け入れてくれた。但し、カッフェを淹れるのが担当の娘がまだ来ていない。先ほど遅刻の電話があったそうだ。だから私が淹れるのでも良いならばと女主人は私達にウィンクを投げて準備を始めた。本当はこの道を行く予定ではなかったが、酷い渋滞が見えたから高速道路を降りて只今南下中なのだと何気なく私が話し始めると、女主人は、うん、と大きく頷いて、それは賢い選択だった、今朝大きな事故があって2時間経つ今も大混雑なのだと言った。成程、成程と話しているうちに、女主人は急に話をかえた。あなた達、何処からきたの。ボローニャよ。あら、私は此処に住んでいる男性と結婚したんだけど、生まれも育ちもボローニャでね、と彼女は喜び、この辺りで作られている小さな菓子をふたつ差し出した。この店にはフィレンツェ辺りの人が沢山来るにしてもボローニャから来る人はあまりないと言う。嬉しいわねえ。ボローニャからのお客さんなんて。女主人はそう喜んで次から次へと話したがったが、そのうち奥から大きな息子が出てきて、かあさん、そろそろ料理の準備を始めないと言ったところで、私達のお喋りサロンは解散となった。また来るから。今度は美味しい料理を食べに。そう言って私達は店を出て、再び山道に車を走らせた。
ところがである。一体何処で間違えたのか、フィレンツェ近郊から西に車を走らせるところを、気付いたら南東に位置するアレッツォに来てしまった。車にナビはついているが、それをうまく使いこなせない私達は、旧式に紙製の地図を指でなぞってのドライブの旅なのだ。つまり、地図を読んでいた私のせいということになる。其れも運命。訪問したいと思ったことは今までなかったけれど、何しろ来てしまったのだから楽しむのが良い。何の知識もないから、本当に散歩程度ではあるけれど、私達が見たアレッツォ旧市街は美しく、どうしてもっと早く来なかったのかと何度も同じ言葉を交わした。同じ古い街でもボローニャとは色も街並みも雰囲気も聞こえる音も違う。沸き起こる興味が私を掻きたてて止まらなかった。ロベルト・ベニーニ監督主演の映画にLa vita è bellaがあるが、その映画の舞台になったのがこの街である。そう言えば映画に出てきた街並みと相重なり、この街で映画を撮った理由が分かるような気がした。この街は、美しい。フィレンツェもヴェネツィアも美しいが、アレッツォの美しさは地味で深みがあって、ひとつひとつに足を止めてじっくり見入りたくなるようなものだ。街の人達が古いものを大切にしているのが窺える。其れも私が好きになった理由かもしれない。山道を下ったり道に迷ったりでだいぶ時間を取られた私達にはあまり時間が無く、ほんの一部分だけを見ただけで帰路につくことになった。街の中心の大きな広場にすら辿り着けなかったのは、小路を歩きながら観察したり、点在する教会に入ったり、道端で知らない人達とお喋りをしたせいだ。しかし其れもよし。この街に秘められた魅力のかけらをひとつ拾った気分でボローニャに帰ってきたが、帰りも道に迷って散々時間がかかった。昔の私達ならば、こんなへまはしなかった筈。ほんの少し自己嫌悪した晩だった。
7時間運転した相棒はさぞかしくたびれたことだろう。7時間地図と行く先々の標識に目を光らせていた私も大変疲れた。そういう訳で翌朝はふたりとも疲れていたという訳だが、しかしたまには遠方に足を運ぶのは楽しいことだと言うことを相棒が思いだしたのが嬉しかった。疲れたと言いながらも近いうちにまたアレッツォに行こうと言う相棒。彼は相当あの街が気に入ったらしい。次は電車で行こうか。それとも車で、しかし一晩宿をとるのもよいだろう。そうすれば、夕食時に美味しい食事とワインを堪能できるから。

秋晴れのトスカーナ。夕方の赤い空。暫く忘れられそうにない。




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