明るい空、光る海。

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オスロに居る友人を訪ねるにあたり、流石に友人に会いに行くだけが目的では勿体ないと思い、本屋でオスロの本をパラリパラリとめくってみたところ出てきたのが海に面して建つオペラハウスだった。ミラノの歴史あるオペラハウスとは全く異なる、斬新なデザインで真新しい、鏡張りと言うのか、兎に角見たこともないような形の意表を突く建物だった。読めば屋根を歩けると言うではないか。屋根を歩けるオペラハウスなど、聞いたことも見たこともない。これだ。私はこれを見たい。そして私も屋根を歩くのだ。しかし雨が降れば滑りやすくなり危ないのではないだろうかとか、私のように高い場所が苦手な人は上まで行ったはいいが眩暈を起こして落下するのではないだろうかとか、本に載っている写真を見ただけなのにあれこれ心配が浮かんでは消えたものだった。しかし目的があるのは良いことだ。友人に会う。そしてオペラハウスの屋根を歩く。此れだけで充分、と本を閉じた為に、それ以外の重要な情報を得ることを忘れてしまった。例えば通貨、例えば空港から街の中心への行き方、交通網のことなど。

オスロ2日目は一日中雨だった。しかも横殴りの雨で、断続的に降る雨に私は溜息をつきながら、友人のアパートメントの窓から外を眺めるばかりだった。それでも少しくらいは外に出ようと、私は友人に連れられて近所の大きな公園を散歩して、しかし酷い雨が降る時は樹の下で傘を差しながら雨宿りをせねばならなかった。其れほどの雨で、こんな日のオペラハウスの屋根はさぞかし滑ることだろう、滑って転ぶ人がいなければよいけれどと、心の中で独りヤキモキしたものだった。3日目は雨が降ると言われていたわりには地面が渇いていた。早速オペラハウスへ行ったが、なんと、立ち入り禁止だった。屋根を歩くどころか立ち入り禁止のテープが貼られていて、オペラハウスの敷地に一歩とて踏み込むことが出来なかった。屋外での催し物の為、数日間立ち入り禁止とのことである。何と言う不運。この不運はその後も続く。友人と向かった小さな博物館は移転のため2020年まで休館、その近くの美術館も同様に休館と、行く先々に不運が待っていた。何故だ。旅行者の多い8月なのに。唯一の幸運は雨が降らなかったこと。空の神様が不憫に思って雨を降らせなかったに違いない。そういう訳で私は諦めたのだ。オペラハウスの屋根のことは。
明後日のこと。ボローニャへの帰宅を翌日に控えた夕方のことだ。バスの停留所で来ないバスを待っていたところ、見えたのだ、人が屋根の上に居るのを。あ、人が屋根を歩いている! 私と友人は大騒ぎしながら海へと向かい、光が反射して白く光るオペラハウスの前までやって来た。遠目にも見栄えがするが目の前で見ると美しいの一言に尽きた。私は基本的に新しい建物があまり好きではない。現代建築、近代建築よりも、古い歴史的なものが好きなのだが、これは好きとか嫌いとかを超越したもの、建物というよりは作品だった。オペラやバレエを鑑賞しなくても、この建物を訪れる誰もが屋根を歩くことで建物と交わることが出来るのは、全く素敵なことだと思った。こんな建物を考え出した人に拍手。私は思ったよりも滑らない、なだらかな傾斜がひたすら続く屋根を歩きながら感心した。自分の想像を超えたものが思いがけぬ場所に存在する。先入観を殴り捨てよう。これが私が好まぬ新しい建物ならば、私は新しい建物も大好きだ。

午後7時の空はまだまだ明るく、光る海を眺めながら、オスロに来て良かったと思った。私にとっての未知の世界はまだ沢山ある。重い腰を叩きながら旅に出掛けようよと自分に言い聞かせた。足が動く限り、目が見える限り、旅する元気がある限り。




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