こんな人の居る街

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物は考えようとはよく言ったものだ。例えばタクシーのこと。リスボン空港に到着した日、あの日は予定より到着が遅れて21時になろうという時間だった。こういう時間帯は好きじゃない。まあ、好きだろうがあるまいが、そんな時間になってしまったのだから仕方がない。もともと公共の交通機関など使うつもりが無かったから、タクシー乗り場に行き、偶然あてがわれたタクシーに乗った瞬間に嫌な感じがした。若くて調子の良い青年で、運転が酷く乱暴だった。こういう運転手にあたってしまったからには腹をくくり、運転手の話の調子に合わせてホテルに到着した。30ユーロだった。6年前に利用した時は10ユーロだったから、幾ら6年経っているにしても、たとえ物価が上昇したにしても、ありえないことだ。吹っ掛けられたと思った。けれども道中いろんな話をして愉快に旅が始まったことを思えば、がたがた言うほどのことでもないと思った。過剰な心付けを払ったと思えばよい。それに旅の始まりから怒ったりして折角の旅にケチがつくのも嫌だったから、ありがとう、楽しかった、と言ってタクシーを降りた。物は考えようなのだ。怒らねばならぬ時も勿論ある。けれども怒ってばかりいると自分が損をすると、いつの間にか思うようになった。

暑かったボローニャでは暫くの間ワインを控えていた。その分、リスボンでは大いに堪能した。昼間もせいぜい25度にしかならぬリスボンは、昼食にしろ、夕食にしろ、ワインを注文するに相応しかったといえよう。隣席の人達が奢ってくれることもあれば、私の注文したものを分け合ったこともあった。リスボンという土地柄なのか、ポルトガルの人達とはそうした人達なのか、そして私にしても旅人になると気も懐も大きくなるのか、ひとり旅のひとり食事だが、全く愉快に過ごすことが出来た。一度、注文したものが間違って出てきたことがある。目の前に置かれた皿を見て、え、これ? と目を見開く私。それを見て、注文を間違えたと気付いた店の青年。その様子を見ていた隣のテーブルの人達が、わいわい文句をつけ始めようとしたので、これでいい、これが気に入ったからこれにする、と、注文を翻して出てきたものを頂くことにした。青年は恐縮していたし、隣のテーブルの人達もやいのやいのと騒いでいたが、私は気にせず食べ始めた。食べられないものではなかったし、間違えたことを青年が店主に叱られるのも嫌だったし、旅とはそうしたことが付きものだと思えばいいだけだ。少なくとも騙されたわけじゃない。まあ、そんなこともあり、隣のテーブルの人達がこれも食べてみろ、あれも美味しいぞと自分たちのものを味見させてくれたし、食事の後に頼みもしない菓子と食後酒が出てきたし。此れも皆、あの時怒らなかったからだろう。独りの休暇で時間が沢山あったから、色んなことを考えた。結局はあまり怒らない方がいい、ということだ。

到着した日のタクシーが30ユーロだったから、またそんなものかと覚悟していた。ホテルに頼んで呼んで貰ったタクシーの運転手は、結構な年齢のお父さんで、運転はやはり荒いが、気の良い呑気な人だった。無駄な話はひとつもしない。まあ、彼は英語があまり分からないと言うこともあるけれど。そうして空港につくと料金は10ユーロだった。6年前と同じだった。あなたは大変な正直者。行きのタクシーは30ユーロ請求されたと言うのにね。10ユーロに奮発した心付けを載せた料金を渡しながらイタリア語とポルトガル語を駆使して言う私に、旅行者だと思って随分と酷い奴が居るものだ、と運転手は憤慨して、心付けはいりませんよ、申し訳なかったね、と言って私の手から10ユーロ札だけを摘み上げた。正直者の運転手。お父さん、此れではちょっともお金が貯まらないでしょう? と思いながら、こういう人がいるリスボンが、やはり私はリスボンが好きだと思った。さよなら、おじさん。さよなら、リスボン。

そうしてリスボンの旅が終わり、ボローニャで飛行機を降りたら息が詰まるような熱風が待っていた。夢から覚めた、そんな気分。それとも、夢だったのかもしれない。




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Comment

Via Valdossola

30ユーロとは酷いですね。私もタイのバンコクのタクシーで吹っかけられましたが日本円にしてせいぜい100円くらいだったので、しかも私が仏教徒(いい加減な)と知ると「喜捨」だと言ってお礼を言っていましたから、支払いました。相手にも何か理由があったのでしょう。本当に物事は考えようですね。ところでボローニャとリスボンの間には直行便があるのですか?
  • URL
  • 2019/08/14 07:24
  • Edit

yspringmind

Via Valdossolaさん、こんにちは。30ユーロと言われて、ああ、やっぱりと思いました。でも、不思議なことに怒りとか、酷い残念感はなく、ははあ、やはりそう来たな、といった感じ。あそこでもし怒っていたら私の旅は違ったものになっていたのではないかと思います。30ユーロ払ったからなのか、その後の旅は色んな場所で人に助けられ、色んな人にご馳走になり、全く楽しかったんですよ。良くないことあり、良いことあり。そういうことです。
ところでボローニャからはTAPでリスボンまでの直行便があります。乗り換えが嫌いな私には大変有難いことです。
  • URL
  • 2019/08/14 22:18

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