旅にでたい

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朝から蝉が賑やかだ。夏であることを聴覚的に知らせてくれる蝉の声。視覚的には空の色、草木の鮮やかな色、丘の色。そして肌が感じるのはねっとりとした暑い風。山の天気は変わりやすいというけれど、どうやらアペニン山脈あたりで雨が降ったらしく、そちらの方角の空が黒い。そして黒い空の方角から吹いてくる風の湿度の高いことと言ったら。本当ならばそれほど暑くない今朝だが、湿度が加わり不快なこと、不快なこと。そして時折響き渡る雷の音。私達はこの雷の音にとても敏感だ。少し前に大きな雹が降り、多くの車がダメージを受けたから。ガラスが割れたり車体が傷ついたり。エミリア・ロマーニャ州だけでも相当数の車が被害を受けたらしい。喜んでいるのは車の修理工。悲鳴を上げているのは車の所有者。財布から出ていく大金に溜息をつく。自然が相手だからどうしようもないことだと誰もが知っているけれど、そういう訳で雷が鳴り響くと、皆、神経をピリピリさせて願う。雨よ、降るなら降るが良い。でも、雹はお断り、と。

イタリアでは州ごとに夏、冬のサルディの開始日が決められている。ボローニャを含めて多くの街は昨日がその日に当たり、随分な人が街に繰り出したらしい。隣人は裕福なのでサルディなど利用しないのかと思えば、そんなことはないわよ、と言いながら沢山の名の知られた店の紙袋を手に車から降りてきた。こんなに沢山良いものを手に入れたわよ、と言ってご機嫌な彼女。そんな彼女はカタログで見た新しい型の鞄を求めて妹と店に行ったら、これはまだパリにしか置いていないと言われて、その足で空港へ、そしてパリへ行って鞄を買って帰ってきたという伝説のような話を生み出した人。だからサルディを利用すると知って、ふーん、彼女も普通の女性なのねえ、と一種の感動を覚えた。と、もう一台の車が到着。これは娘の車だ。彼女の方も沢山の紙袋を後ろに積んでいて、その量の多さは母親の比ではない。楽しそうに声を交わす母親と娘。どちらも大変なお洒落さん。お洒落などしなくても大変美しいが、その美しさを引き立たせるものを選び出す能力に長けていると、私は彼女たちに会うたびに思うのだけど、彼女たちは随分と沢山の良いものを見つけたものだ。傍らに居ながら一言も声を発さない家長。どうやら彼はこの手のことには関心はないらしく、目を丸くして買い物の量の多さに驚くばかりだった。サルディは、女性の為に存在するのかもしれない。
さて、私はと言えば、この夏に限ってはとても控えめ。欲しかった鞄はサルディ対象外となり、したがって急ぐ必要が無くなった。其れよりも旅をしたい。旅に出たい。旅をしよう。私の関心はそちらにばかり向いている。恐らく毎日の単調な生活に飽きたのだろう。恐らくいつもと違うものを見て、何かを感じ取りたいのだろう。其れも後ひと月の辛抱。旅行カバンの中身を用意するのは、例のごとく前日の夜に20分足らずで済むとして、私の頭の中を占領しているのは、7年振りに訪れるリスボンの街。私は妙なことに記憶力が良く、ツマラナイ小さなことや道の名前、道の様子、色合い、その時に聞こえた音などを克明に覚えている。ところがここ数年、記憶の引き出しが満杯になってしまったのだろう、ボン!と破裂したかのように、色んなことの記憶が飛んでしまった。例えばリスボンの街の様子。あの角を曲がるとあそこへ行けて、若しくは、此の道を言ったところであの景色が目の前に広がり、と言ったことを思いだそうとしているのだが、頭の中の何処をつついても出てこない。ははあ、すっかり忘れてしまったなあ。我ながら潔い忘れ方で笑いが零れる。ならば良い。初めて行く街だと思えばよい。勿論、初めての旅のような新鮮さはないだろうけれど、地図を片手に歩いたり、若しくは地図を持たずに大いに迷うと良いだろう。そう思ったらがぜん楽しみが増えた。行きたいのは近くのお役所の職員が昼時に利用する、安くて美味しい、英語など全く通じない定食屋さん。あの店が今も在るのかは分からないが、探してみようと思う。それから店先で鳥をひたすら焼いている定食屋さん。日曜日だったあの日は近所に暮らす家族が連れだって食べに来ていたから満席で、やっと作って貰ったカウンターのひと席に着いて、汗をかきながら焼き立ての鳥をピリピリソースにつけて食べた。とんでもなく美味しくて、相棒に食べさせてあげないなあ、と思ったことは覚えているけれど、あの店が何処だったかは思いだせぬ。あの辺じゃないかとは思うけど。と言う私に、相棒は笑って言う。何だ、食べることばかりだな、と。あはは、本当だ、と私も笑う。でも、美味しい食事のある街は楽しい。楽しく食事が出来る街は、楽しいのだ。

夏季休暇まであとひと月。こんな嬉しいことってあるだろうか。




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Comment

micio

yspringmindさん、またまたこんにちは。
リスボンの宿は前回泊まったところですか?
エレベーターの無い6階の。
あのときのブログを読んで、yspringmindさんのリスボンの旅の様子を想像して、私も行ってみたくなりました。
そういえば、yspringmindさんが好きなサンフランシスコの街も、リスボンも、トラムが走っていますよね。
  • URL
  • 2019/07/08 12:57
  • Edit

yspringmind

micioさん、再びこんにちは。前回とまた宿は残念ながらもうありません。家主は階下のカステラ屋さんでしたが、カステラ屋さんはその翌年化翌々年に日本は京都に店を開いたんですよ。あのアパートメントもカステラ屋さんも大変好きだったから残念です。今回はホテル暮らし。と言ったって僅か一週間の滞在ですけれど。
トラムもさることながら、私は坂のある街が好きなようですよ。坂を歩いていると色んなことを感じるのです。micioさんはきっとリスボンが好きだと思います。
  • URL
  • 2019/07/08 21:39

ムーンリバー

yspringmindさんこんにちわ、
おひさしぶりです。お元気そうでなにより・・・
日本も夏休み、ほんと早いです。来月はもうお盆だし。
こちらはまだ梅雨明けもしてなくて、連日の小雨続きで肌寒いですよ。


夏季休暇、今から楽しみですね、(^_-)

イタリアの夏季休暇って5週間?!フランスは7週間?!ときいたことが。
昔、夏のイタリアで観光客しかいない!イタリア人はどこいったの?!って(笑)


yspringmindさん北海道に行ったことありますか?
私はいつかレンタカーで北海道1周したいなぁーーんて、

現実はなかなか・・・
  • URL
  • 2019/07/22 02:20

yspringmind

ムーンリバーさん、こんにちは。元気ですが夏ばて寸前です。睡眠と栄養、これをたっぷり摂らないと!日本は連日小雨で肌寒い…とは、ちょっと羨ましかったりします。こちら35度ですよ。
イタリアの夏季休暇は、様々ですが学校は2か月ちょっとです。そして社会人はと言うと一般的に3週間ですね。したがって私の夏季休暇も3週間なんですよ。うふふ。テンションが上がります。
ところで北海道には二度行ったことがあります。とても美しくて、もう一度行きたいと願っています。
  • URL
  • 2019/07/22 21:35

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