犬を連れた男

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今日から日本はゴールデンウィークと聞いている。過去に私がゴールデンウィークだからと遠出した記憶はいくら考えても思い当たらないが、しかし世間が浮足立って喜んでいる様子を見るのは何処へも行かない私にも嬉しいことだった。皆がにこにこしている。こんな良いことはない。私が日本に居た頃はこんなに長いゴールデンウィークは存在しなかった。10連休と知って、直ぐにそんなことを思った。相変わらず休暇を取りにくい日本だから、これは良いことだと思う。しかもこの素晴らしい季節の10連休だ。羨ましいと思っているのは私ばかりではないだろう。

今年は早くもテラスのゼラニウムが咲き揃って、初夏が駆け足でやってくる気配を感じている。朝、植物たちに水をやり、あまりに風の感じがいいので旧市街に行くことにした。きっと混んでいるだろう。この街は人々で賑わっているに違いないと予想した通り、どの通りも随分な人混みだった。週末は旧市街のあちらこちらが車両禁止。道の真ん中を歩けるのが好きだ。いつもは車が大腕を振っている感じだけれど、週末に限っては歩行者が大腕を振ることになる。こういう日は路上の芸術家、音楽家たちが現れて、私達の目や耳を楽しませてくれる。誰に促されることもなく、通行人たちがコインを帽子や箱の中に残していく。こういうのがとても好きだ。楽しめたからコインを残す。感動したからコインを残す。どの街でも同じだと思うけど、ボローニャの人達は良識があってなかなかいい。仕事帰りに塔の下の大通りでバスを待っていると、ツバメが小気味の良い声を発しながらまだ明るい夕方の空を徘徊するのが見えるが、昼間は何処へ行ったのか、ツバメの姿はない。袖なし姿はアメリカ人の女の子。キルティングの温かいジャケットを着ているのはボローニャ人。私は無理してジャケットなしで家を出たが、首だけは冷やすまいと小さなシルクのスカーフを首に巻き付けてきた。陽の当たる場所は暖かいが、日陰に入ると身震いするほど冷える。夏場は日陰ばかりを探して歩く私も、今日は日向ばかりを探して歩いた。
と、声を掛けられた。Buongiorno. 元気そうですね。そう言われて振り向いたら、背の高い巻き毛の、変わった眼鏡をかけた、年齢不詳の男性が立っていた。さて、私達は知り合いだったでしょうか。単刀直入に私が言葉を返すと、彼は、にっこり笑い、知り合いではないが数年前に丁度同じ場所で言葉を交わしたと言った。えー、そうかしら。そんな思いが顔にそのまま表れてしまったらしい。彼は少し弱気になって、足元を指さした。それで彼の足元を見ると、二匹のダックス。毛並みがぼうぼうで老いた感じの二匹のダックス。其れで思いだした。もう何年も前に、この二匹のダックスが可愛くて、路上で飼い主とお喋りをしたのだ。素敵な感じの男性だった記憶があるが、この人だっただろうかと思いを巡らす。巡らしながらこの数年で彼も、犬たちも、そして私も幾つか年を取ったのだというところに辿り着いて、ふーっと溜息をついた。思いだした、そうだ、私達は犬のことで話をしたのだ。正しく言えば私があなたに声を掛けたのだ。彼は私が思いだしたことに気をよくして嬉しそうに笑い、君はまだボローニャに居るんだねと言うので、そうよ、まだ居るし、これからもずっと居るのよ、と答えると益々嬉しそうに笑った。犬たちは足が弱り始めたらしい。でも元気そうだった。またね、またいつか。そう言って私は彼と犬たちに手を振って歩き始めた。歩きながら、小さな瞬間の些細なことを覚えている人が居ることに驚き、そして悪くないと思った。そして、人は見ていないようでよく見ていることを知り、いつもきちんとしていたい、礼儀正しい人でありたい、と思った。

最近ボローニャの調子がいい。サッカーのことだ。監督が代わって以来、良いゲームをするようになり、今日はエンポリを3-1で下して勝利。長い間出口が見つからないトンネルと歩んでいたボローニャなどと言ったら相棒に大そう嫌われそうだけど、最後の数試合はこんな好ゲームを見せてくれたら有難い。そう言う訳で相棒は機嫌が良く、ジェラートでも食べに行かないかと妻を誘う。次回も勝利を願おうではないか。




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