手袋

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昼近くになってようやく日が差し出した日曜日。ほっと喜びの溜息をつく。今日は外に出る予定はないから雨だって風が吹いていたって、そして太陽が顔を出していなくとも構わないと言ってしまえばそうだけど、しかし家に居たって陽が出ているのとないのでは随分と気分が違うものだ。この太陽は空からの贈り物。頑張れ、頑張れ、寒さに負けるなと、空のみんなが言っているように思えるのだ。

昔、まだ私が小さな子供だった頃、家には絵本が沢山あった。どれも父と母が選び出したもので、姉と私はそうした絵本を読み聞かされて育った。私はお話が大好きだった。こうしたことが始まりで、成長していくうえで本との縁が深くなり、何よりも本を読むのが好きになったのだが、それはさておいて、子供の頃、家にあった絵本のことを急に思いだした。てぶくろ、という名の絵本。調べてみれば1965年に初版されたものらしい。そして初めて知ったのだけど、ウクライナ民話を絵本にしたものだそうだ。この絵本を母が手に取ると嬉しくて嬉しくて、母の足元に縋り付いて耳を傾けたものだった。雪降る森の中におじいさんが落としていった片方の手袋。それを見つけた動物たちが暖を取るために次々と訪れる。梯子をつけたり窓をつけたり。大人になった今思えば、そんな小さな手袋に沢山の動物が住めるはずがない。けれどもあの頃の私はおじいさんの手袋がパンパンになっていく様子を想像して、わくわくしたものだった。いろんな動物が同居する様子を想像しながら、もう一度、もう一度読んでと強請った。これは大切な絵本、と母は読み終えると本棚に納めた。あれから何十年も経って、あの本の行方は誰にも分からない。様々な絵本が家にあったが、あれは私の中では傑作中の傑作。今も読み継がれていることを心から願う。物騒なことが起こる世の中だからこそ、こうしたお話は大切だ。
少し前にこの絵本のことを思いだして、箪笥の中にしまっておいた革の手袋を探したところ、手入れが悪かったらしく黴の匂いが。ああ、またやってしまった、今年も駄目にしてしまった、と思った。何故だろう、ここ数年私の革製品は黴にやられることが多い。目には見えないが、黴の匂いがするのだ。クリーニング屋さんに持ち込んでみたが、手遅れだという。冬を終えた時点で持ち込むべきだったと言われ、全くその通りだと思った。そういう訳で手袋を新調することにした。旧市街の、マッジョーレ広場からすぐそこにある手袋の店。1860年が創業だというから、かれこれ158年も続いているということになる。ボローニャに暮らすようになってから、毎冬のように足を運んでいる店のひとつだ。他のブティックのようなファッション性はあまりないが、柔らかいナパ革で丁寧に作られていて、手袋の内側はカシミヤやウールが施されていて温かい。様々な色ものが存在するが何時も選び出すのは黒で、ほんの僅かながら装飾のあるもの。冬はかっちりとした男っぽいコートや靴が多い私は、手袋くらい柔らかい感じが欲しいと思うからだ。大抵はコートの袖の中に隠れてしまって見えないけれど、何かの拍子にチラリと見えるのがちょっと良いのではないかと思って。店に行くとこの辺りでは有名な姉妹が小さな店の中で先客の対応をしていたが、先客が店を出るとこちらを向いて挨拶を投げかけた。求めている手袋の色とか雰囲気を述べると、私の手をじっと眺めて丁度良いサイズのものを幾つか取り出した。この、客の手をじっと眺めてサイズを当てる彼女たちを、毎年ながら凄いと思う。外れることはあまりない。そうして5種類ほど試してから、ひとつを取り上げた。これにします。という私に、そうですね、これが一番手に馴染んでいましたねと彼女たちが言う。他の店のように楽しい会話はしないけれど、とてもプロフェッショナルで感じがいい。だから私はまた来冬も此処に来るのだろう。たとえ来年の冬は手袋を駄目にしていなくても。手袋をもうひとつ新調するために。それにしても今日はツイていた。寒くなるとこの店は、小さな店の中が客で満員になり、扉の外にも客が待つようなこともあるからだ。そういうことに遭遇したことが幾度かある。ボローニャの人達がこの店の手袋と対応の質の良さを知っている証拠だ。それを眺めながら、この調子なら大丈夫、この店はこれからも続けていけるだろう、と確信するのだ。

あと3週間もすると冬休みがやって来る。冬休みかあ。良い響きだなあ。相棒と日帰り旅行などするだろうけど残りは気ままな毎日だ。体調に気をつけながら楽しくやっていこうと思う。したいと思っていることは沢山あるが、まあ、そういうことは、冬休みに入ってから考えることにしよう。




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moonriver

yspringmindさんこんにちわ!もう12月、はやいですね!

今年は温暖?!この時期にしてはこちらは気温が高めです。




絵本、私もすきです、むしろ大人にってからのほうが好きになった気がします。ウクライナのてぶくろ、良い絵本ですよね、動物達が増えるにつれて、窓が、、はしごが付いて・・改装されていく?様子がすきです(*´з`)
ロシアのおおきなかぶ、モンゴルのスーホの白い馬も、良い絵本はたくさんありますよね。一時期、チェコの絵本収集したことがあります。


わたしも皮のスカートが白いカビでびっしり状態になり、見た瞬間、かなりの衝撃でしたよ(笑) 濡らした布でふき取り、日干ししたけれど「陰干しのほうがいいのかな、、」 
  • URL
  • 2018/12/03 07:54

yspringmind

moonriverさん、こんにちは。今年は12月が駆け足でやって来た感じです。日本は温暖ですか。イタリアは、そうですねえ、寒いといえば寒く、しかしまだボローニャでは雪が降っていませんから、やはり温暖なのでしょうか。
moonriverさんも絵本が好きですか。幾つか思いだす絵本があります。黒いうさぎと白いうさぎ。てぶくろ。それからどろんこハリー!何十年も経つのに覚えているなんてねえ。
ところで白い革のスカートに黴。残念ではありませんか。それですっかり綺麗になったのでしょうか。黴の匂いも消えましたか。
  • URL
  • 2018/12/03 19:59

moonriver

  yspringmindさん(#^.^#)再び・・


  皮のスカートは黒色ですが、白いカビ、、
 一度クリニングで相談したら\(◎o◎)/!ビックリする金額だったので自分で  処置。
 今はなんとかきれいな状態をキープしています。風通しのよいとこに保管。
 晴天の日に日光に長時間あてたので死滅したのかもしれません。
 歯ブラシでこそげ落とすとか・・?!あと、カバンの内側とか、
 ベルトとかもカビカビになってたことも・・・トホホ~(´;ω;`)

 
  • URL
  • 2018/12/05 10:17

Kimilon

手袋の絵本。私も大好きです。
あの おしゃれぎつねです。何て 素敵な服を着た 狐が言うところなんて。

毎年 新しい革の手袋。ワクワクするではありませんか?
私も 何時も同じような色ですが 革の手袋 新調しますよ。
  • URL
  • 2018/12/08 19:30
  • Edit

yspringmind

moonriverさん、そうでしたね、読み間違えましたよ。皮のスカートは黒で黴がしろ何ですね。どちらにしても全く残念ですね。
クリーニングが出来るんですか。私だったら高くてもクリーニングに出してしまうかも。moonriverさんのように自力で黴と対決するなんて勇気はありませんからねえ。
何にしろ、黴は天敵です。要注意なんですよ。
  • URL
  • 2018/12/08 20:50

yspringmind

Kimilonさん、こんにちは。てぶくろの絵本、あれは名作、傑作だと思うのです。あの、おしゃれぎつね。自分で私はおしゃれぎつねだと名乗るところが私も大好きでした。今も読み継がれているでしょうか。そうれあればいいけれど。
さて、革の手袋を新調するのがKimilonさんもお好きなようで。うふふ。気が合いますねえ。
  • URL
  • 2018/12/08 20:53

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