そぞろ歩く

DSC_0089 small


昨夕、旧市街に立ち寄った。丈詰めしたいジーンズをいつもの仕立て屋さんに持ち込みたかったからだ。11月末に出産を控えている女店主のお腹は充分過ぎるほど大きくなって、店に来る客が明日が出産日なのではないかと訊くので、皆で大笑いした。それくらい大きなお腹。ぎりぎりまで仕事をしたい彼女は、どうやら出産日直前まで頑張るつもりらしい。無理をしないで、と言いながら客の私達は彼女が産休のために店を閉めるまでにお願いしたいものを持ち込みたいと思いを巡らす。其れほど、彼女の腕がいいと言うことだ。他にも店はあるけれど、腕の良い、信用できる彼女にお願いしたいと言うのが私達客の共通の思いなのだ。
それにしても旧市街は変化しつつある。ここ数年の間に随分と店が入れ替わった。新しい店が開くと不思議なもので前にあった店の記憶がすっかり消えてしまうのはどうしてだろう。長い間、其処に居座っていた店で、毎日のように前を通っていたというのに。仕事帰りに乗るバスを時々気まぐれで途中下車するのが好きだ。時にはジェラート屋さんに吸い込まれ、時にはただ何となくポルティコの下をそぞろ歩く。
その日の私は涼しい季節になったせいで店内に客がひとりも居ないジェラート屋さんに入った。一番小さいのを注文したら、小さい器に店主がジェラートを山盛り盛り付けてくれた。わーい、と喜びながら席につく。この店が他と違うのは、店内に小さなテーブル席が設けられていることだ。そうしているうちに青年が入って来た。チャオと店主と挨拶を交わすところを見ると、知り合いか親戚かご近所さんなのだろう。夏の間に塗り替えられた壁。天井に残された古いフレスコ画。小さな店で旅行者が来ない店。街中に散りばめられるようにして存在する大きくてモダンで綺麗な店よりも、私はこうした空間が好きだ。ほっとする、と言ったらいいだろうか。そのうち私はジェラートを食べ終えて、店主にまた来るからと挨拶すると、傍にいた青年がまた此処で会いましょうと言った。会った自覚はなかったが、成程、こうして同じ店で、しかも他に客のいない店で同じ瞬間を共有した仲ということか。だから私も彼に返した。また此処で会いましょう、と。
少し先に行くと、新しい店があった。俗に言う飲食店。のんびりした空気があった。店内にはテーブル席が余裕を持って並んでいて、いい感じだった。食前酒の時間帯だったから、それを目当ての客が幾人もいて、中には車いすの人達もいた。成程、このように段差がなくて入り口の広い店ならば、車いすの人達も自由に出入りできる。成程、テーブルとテーブルの間に余裕があれば彼らもぶつかることなく動き回れる。関心を持って外から中を覗いてみたら、誰もが楽しそうな表情で、あ、この店はいいなと思った。ボローニャには食前酒などを楽しむ店が数え切れぬほどあるけれど、こうした誰もが楽しめるように工夫された店は少ないと思う。誰もが。皆が平等に楽しめる空間がもっと増えるといいと思う。
そしてもう少し先に行くと、また新しい店が。階段を上がってはいる店で、店の中は昔ながらを大切にした、シンプルでボローニャらしい店だった。此処もワインの店らしい。この雰囲気はボローニャの人には堪らないだろうと思った。お洒落で拘りのある人達が集まる店になるだろう。
古い店が姿を消して、新しい店が次々と開く。昔の街並みが無くなっていくのは残念だけれど、これを街の新陳代謝と思えばいいのだろう。昔のことにしがみ付いてばかりではいけないと言うことなのだろう。それにしたってボローニャは何処もかしこもがワインをちょっと楽しむ店になってしまった。それが流行なのかもしれないけれど、ほんのちょっと残念だ。昔はそれと同じくらい靴屋さんがあったボローニャ。靴が大好きな私を喜ばせてくれたけれど、今はすっかり少なくなって、靴探しが難しくなってしまった。これも時代の流れなのか。

10月中旬を迎えてもまだこんなに温暖で、とボローニャの人達は言う。素晴らしい秋と誰もが言う。来週辺り、遠出をしてみようと思う。素晴らしい秋を堪能しに。黄色い葉が地面に落ちてしまう前に。




人気ブログランキングへ 

Pagination

Comment

Post Your Comment

コメント:登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

yspringmind

Author:yspringmind
ボローニャで考えたこと。

雑記帖の連絡先は
こちら。
ysmind@gmail.com 

フリーエリア

月別アーカイブ

QRコード

QR