昼下がり

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この夏一番の暑い週、と名付けられた一週間だったけれど、話によれば此れからの一週間も同様に暑いらしい。と言うことは、この夏一番の暑い二週間、と言うことになるのか。信用が置けない。この調子だと、二週間が三週間、三週間が四週間に伸びる可能性大である。そもそもテレビに聞き耳を立てていると、80年振りの暑さとか寒さとか、毎年聞いているような気がする。こんな具合だから、いちいち文句を言っていてはきりがない。その辺が実にイタリアらしく、その辺が実に単純で笑いを誘い、愛おしい、と思えばよい。柔軟でなくては。

金曜日の夕方、帰りがけに近所の青果店に立ち寄った。目的は桃。この店で買う桃は本当に美味しい。6月の終わりごろはまだいい桃がなくて、今年は不作なのかと心配したけれど、7月も中旬になると大振りで甘い果肉の桃が店に並び、その中から美味しいのを選んで貰うのが私の仕事帰りの小さな楽しみのひとつだと言ったら、人は笑うだろうか。しかしそんな桃を程よく冷やして、夕食に切り分けて相棒と食する喜びは大きい。果物を自ら好んで食べることの無い相棒が、丁寧に皮をむいて、切り分けた桃を小皿に並べて差し出すと、喜んで食べる。今日のも美味しいなあ。そうよ、あの店で買えば間違えないのよ。私達は毎晩同じ言葉を交わす。あの店の桃は少々高値だけれど、その価値は十分あるのだ。少なくともこんなに喜んで食べる相棒を見ていると、そんな風に思える。ところで桃を購入しに行ったところ、新鮮な鞘いんげんが木の箱に山盛り積まれているのを見つけた。目ざとくそれに気づいた店主が言った。シニョーラ、今朝入庫した新鮮な奴ですよ、しかもとても安い。それじゃあ、と少し袋に入れて貰うことにした。この店では何グラム頂戴とか、そうした会話はない。店主が袋に入れているのを眺めながら、そのくらいでいいとか、もうふたつ掴みぶん、とか客が分量を支持するのだ。ところが私は店主に注文しておきながら、ぼんやり別のことを考えてしまい、気が付いた時には袋が一杯に。シニョーラ、流石にこれ以上はいらないでしょう、と店主が言う通り、これ以上はいらないどころか、その半分でも良かったぐらいだった。だけど、何も言わずにその大量の鞘いんげんの代金を払って家に帰って来た。今夜は沢山鞘いんげんを食べよう、と流しの中で袋を逆さにしたところ、まあ、何と沢山あることか。さて、どうしたものかと思いながら水洗いして筋を取り除いたところに相棒が帰って来た。流しにある鞘いんげんの山に彼は驚き、何だか父さんみたいなんだなあ、君は、と言うのでふたりで顔を見合わせて大笑いした。そうだ、舅もそんな人だった。山ほどの鞘いんげんを買ってきては皆からどうしてこんなに沢山買ってきたのだと戒められ、流しのところで背中を丸めてひとりで筋を取り除いていた。そんな舅のところに行って、此の筋を取り除く作業が嫌いなのだ、指先が悪で黒くなるから、などと言うと、美味しいものを頂くためには指を黒くしたり汗を流したりするものなんだよ、と言って指先が黒くなるのを嫌う嫁を戒めたものだった。そして食卓に茹であがった鞘いんげんが並んで皆が喜んで食べると、彼は言うのだ。どうだ、美味いだろう。まるで彼が鞘いんげん農家で、汗を流して育てたような言い方で、私達家族は苦笑したものだ。私達は、お父さんの鞘いんげん、と呼んでいた。もう随分昔の話だ。さて、買い過ぎた鞘いんげんだけど、半分を冷凍庫に入れて、半分を塩を入れた湯で茹でた。茹でている間のあの匂い。海の向こうに入る母のことを思いだしたり、もう居ない舅のことを思いだした。きっと来年の夏も、同じように思いだすことだろう。

猫は昼寝ばかりしている。よくもこんなに眠れるものだと呆れるほど。このところしんどかったので、今日は私も昼寝をしようと思っていたが、あまりの暑さで眠れなかった。ねえ、あんたはどうしてこんなに良く眠れるの? と眠る猫に問いかけてみるが、身動きすることもない、耳をピクリとも動かさず、微かに寝息が聞こえるだけ。レースのカーテンが微動することもない、風のない、暑い、暑い、昼下がり。




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