8月に想う

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昼過ぎに窓の外から車のクラクションが聞こえた。この派手な鳴らし方からすると、近くの教会で誰かが結婚式を挙げたのだろう。8月第一土曜日に。この暑いさなかに。この時期に結婚式をするのは珍しいこと。だいたい、祝いに駆けつける友人知人、家族親戚も夏の休暇で街を留守にしていること可能性が大きいから。それとも、と思う。案外それを狙っての、大変個人的な結婚式にしたかったのかもしれない。それならば分かる。世の中には様々な異なる考えを持つ人が居るのだから、そんな人達が居たって少しも不思議ではない。

それにしても静かなものだ。クラクションの音が去った後の静けさ。近所の人達は揃いも揃って留守で、聞こえるのは蝉の声と、猫が虫を目で追いながら小さく発する短い鳴き声、風に揺れる草木の音、そして自分の呼吸音。いつの間にか相棒が手入れしてくれたテラスの植物たちが嬉しそうに風抜揺れる様子を眺めながら、もう8月になったのかと驚く。例年ならば私も休暇に入って肩の力を抜いているところだけれど、この夏はまだもう一週間残っている。そんなこともあって8月になった実感があまりない。
27年前の8月。アメリカへ行くことで頭が一杯だった夏だ。アメリカへ行く準備は既に整っていた。仕事も辞めたし、辞めた後にお小遣い集めにしていたアルバイトもそろそろ潮時と言うことで辞めてしまった。自分の部屋の整理も終わっていたし、後は空想したり手紙を書いたり、時々友人から電話が掛ってきたり。思いだすのは大きな窓辺に腰を掛けて外の景色を眺めていた自分の姿ばかりだ。階下の庭に植えられた野菜たち。此処に家を構えることを決めた父と母がしたかったのは家庭菜園だったらしく、夏には様々な野菜が実った。捥ぎたての熟れたトマトの甘いこと。鈴なりの枝豆を捥いで洗うのは私の仕事だった。蔓がぐんぐん伸びて複雑に絡み合っているのは鞘いんげん。夏にこの鞘いんげんが頻繁に食卓に並んだのは、毎日たくさんの収穫があったからだ。それを母は上手に調理して、見た目も味も異なる鞘いんげんの一皿を毎日用意してくれた。今ならわかる、有難いことだったと。けれども子供の頃の私は、茹でた鞘いんげんを食べると歯がキュッキュッと音がして嫌い、などと言って母を困らせたものだった。私は大窓に腰を下ろして、父と母がこの辺りの悪い土を耕して、野菜作りができるように手入れして、今では豊作を望めるようになったこの庭の一角の野菜畑を眺めながら、こんな場所で思春期を過ごせたことを幸せだったと初めて思った。東京から田舎街に引っ越してきて、様々な苦悩や困難を子供なりに感じながら通過したしてきたけれど、なあんだ、大したことなかったなあ、それよりも父と母が与えてくれたこの田舎での、野菜が育つ庭のある此の家で暮らすことが出来たのは幸運だったのだ、と思ったものだ。それでいて、私はその場所から飛び出すことに夢中だった。アメリカへ。長年反対していた母だけど、最後にうんと首を縦に振った時の私の喜び。そんな私を見ながら母は、娘は飛び出したら最後、帰ってこないだろうと直感していたかもしれない。8月になるとそんなことを思いだして、ほんの少し胸を痛める。特にこんな静かな日は。暑いくせに風があって。レースのカーテンが膨らんだり萎んだりするのを眺めていると。

あと一週間だ、と思う。私が帰省するのを待っていてくれる家族が居る幸せ。高齢になっても独り暮らしを続けたいと言い張る母に会いに行くこと、少しでも多く母との時間を持つこと。それが私に出来る親孝行のひとつだと思っている。姉もそうだ。ふたりきりの姉妹なのだから、と母が何時だか言っていたけれど、全くその通りだとこの頃思う。誰かが私を待っていてくれる幸せ。私の帰省を喜んでくれる家族の笑顔。あと一週間待てばいいだけだ。




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moonriver

yspringmindさん 

日本に帰国するのですね!
家族は、何にも変えられない本当にかけがいのない存在ですよね。
つもる話もあるでしょうし、素晴らしい時間を過ごしてくださいね(#^^#)
  • URL
  • 2018/08/07 05:29

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2018/08/07 05:32

yspringmind

moonriverさん、こんにちは。日本の帰ってきました。たったの2年ぶりですが、とても恋しかったのだなあ、と自分のことながら驚いています。10年帰らなかったときは全然平気だったのに、です。暫くのんびりします。
  • URL
  • 2018/08/12 15:41

yspringmind

鍵コメさん、私はもしかすると、よく言えば人に頼らずにやっていける人間で、ほかの方向から見れば、人に頼ることができないで損するタイプでもあります。確かにそうやって生きてきたことを後悔はしていないし、それでよかったとも思うけれど、半面、自分と正反対のタイプの人達もうらやましかっくたりするんですよ。
  • URL
  • 2018/08/12 15:50

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