月の神秘、月の力

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夏とは暑いものと決まっているが、それにしても暑い。今日は朝一番の予約を取って髪を切りに行くために、土曜日だと言うのに平日と同じに時間に起床した。昨晩遅くまで月を見ていたので起きるのがひどく辛かったが、しかし涼しいうちに髪を切って貰えるのは有難く、眠い目をこすりながら朝のカッフェを淹れた。昼間の暑さには閉口するが朝晩の涼しさはとても悪くない。20度前後の冷えた空気は剥き出しになった肩や首元に気持ちよく、テラスの椅子に腰を下ろしてカッフェを頂きながら、ほっと安堵の溜息を漏らした。猫は既に休暇モード。まあ、一年中休暇モードだけれど、それにしても愛想を振りまくことすらしんどいらしく、体を横たえたまま頭を持ち上げることもなく、目だけをチラリと動かして私や相棒の存在を確認する。仕方ない。あの毛皮のボディスーツはかなり暑いはずだから。と、夕方になって突然の雨。辺りが白く光り大きな雷音が鳴ると、スイッチが入ったように降りだした雨に乾ききった地面が濡れて、懐かしい匂いが立ち上る。土の匂い。私はこの匂いと共に育った。

昨晩の月の美しかったこと。夕食を終えてからテラスの椅子に座って月を眺めた。満月の晩で、そして月食でもあった。テレビでは今世紀最長の皆既月食とのことだったが、確かに長い時間を掛けて再び月が姿を現した。微かな月の光を見つけたのは23時15分。夜風が涼しくなり始めた頃だった。こんな美しいものは久しぶりに見た、と時間が過ぎていくのも忘れて夢中になって眺め続けた。気が付けば零時を過ぎて翌日になっていたが、月は神秘的で魅力的、人の心をつかんで離さないものなのだなあと、しばし感動した。
アメリカに居た頃のことだ。私と相棒が新婚旅行なるものを決行したのは、簡単な結婚式を挙げてから4か月も経ってからのことだった。新婚旅行、などと言ってみたが、実は車で南下してネヴァダ州、アリゾナ州を気の向くまま回った簡単な旅だった。大きなカバンに着替えを詰め込んで、軽装で出かけた。南の方へ行くにつれて暑くなるわ、乾燥するわで、軽装はますます軽装になった。11月の初めだと言うのに半袖シャツにショートパンツ。あまりの乾燥で真っ直ぐの髪が逆立って大変だった。まだインターネネットなど普及していなかったし、それに突然思いついて決行した旅だったから、宿の予約ひとつなく、車で行けるところまで言って、手頃な場所に宿を求めるそんな旅だった。カリフォルニアの砂漠を満喫した。そこから州をこえてネヴァダに入ると宿を探すべく車でさまよったのだが、行けども行けども街らしい場所に出ず、映画ならばこの辺りで悪人がライフルか何かを抱えながら突然車の前に飛び出してきてもおかしくない、などと思ったものだ。乾いた土の、起伏ばかりの土地で、アメリカに来て初めて怖いと思った。しかしそこで見た満天の星。そして大きな丸い月はサンフランシスコでは見たことがないほど光が強くて、月が私達を見ている、あの無数の星たちが私達を見守っていると思ったものだった。この辺りに住んでいる人が居るのだとしたら、此の起伏ばかりの土地の何処かに住んでいる人がもし居るのだとしたら、きっと月と星が好きな人に違いないと思った。暫く行くと道が二手に分かれていた。どちらへ行こうか。分からない。街灯ひとつないこの二つの道のどちらへ行けばいいのかわからなかった。と、流れ星が。私達は賭ける思いで流れ星を追うべく道を選んだ。随分車を走らせたところで安宿を見つけた。此処、大丈夫かなあ。相棒と顔を見合わせて、しかしこんな所でうろうろしているのもなんだからと、其処に泊まることになった。何かあってもすぐに行動を起こせるようにと服を着たまま眠った。物音がするたびに目を覚まして、窓の外をこっそり覗いた。見えるのは美しい月と星、そして荒野だけだった。コヨーテなどがうろついているのかもしれない。そんなことを考えながら再び眠りに落ちた。結局何も起こらず朝になった。安宿とは言うけれど熱い湯がふんだんに出たし、シーツも真っ白でアイロンがあてられていたし。宿を後にする時に宿の主が昨晩の月は美しかった、君たちは見たかいと訊くので、道に迷いながら散々堪能した、あの月明かりがなかったら此処にも辿り着けなかっただろうと言うと、そうかそうかと頷きながら明るい笑顔を見せた。世の中には月の神秘、力などと言ったものを信じている人達が沢山居るけれど、恐らく宿の主はそのタイプの人で、私と相棒もまたその種の人達だ。月食を眺めていた3時間もの間に、私はそんな25年前のことを思いだして、今も私達は少しも変わらない、と思った。あの頃のままだ。月の神秘、月の力。そうした物が好きだ。

そういえば月食の橙色の月を眺めながら、ふと子供の頃のことを思いだして相棒に言ってみた。わあ、綺麗だね。それに月の中に兎も居る。冗談のつもりで言ったのに、相棒ときたら、えっ、と絶句して月に見入るから、私はすっかり罪悪感に包まれてしまった。ふーん。彼って純粋なんだなあ。





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moonriver

知的でエレガントな女性ですね。




髪の毛はショートですか?

わたしは腰までの超ロングです。でももうパサパサです(笑)




年齢と共に髪の毛も・・・ハハ

毎回更新楽しみ「すっかり日々覗きに来るのが日課に」なりましたよ。




こちらは台風が通りすぎて今一時的に気温も低くなりました。




そういえば満月って何か人に影響するのか、

私は妙に寝れない晩とか怒りっぽい日とか、、ふと気づくと満月だったりすることが多いなぁ。




相棒の月の中の兎・・(笑) 男性って純粋、そうでよ!いつまでたっても子供っぽいとこがあるといか、

私のまわりにいる男性はみんな単細胞というか単純と言うか・・ハハ
  • URL
  • 2018/07/30 02:17

yspringmind

moonriverさん、こんにちは。私はもう長いことショートカットなのですよ。理由は何だったでしょうか。多分、髪を乾かすのが嫌いなのと、髪の毛が沢山あって乾きにくいのと、それから、髪を切って貰うのが大好きだからなのです。・・・知的でエレガントな女性。えっ、誰のこと???

私は単純で単細胞で純真な心を持っていて、嬉しい時は喜び、悲しい時には肩を落とすようなシンプルな人が好きですね。そもそも月の中に兎、これに関しては、私が子供の頃からかなり大きくなるまで信じていたことなんですから。
こういうの、好きなんですよ。
  • URL
  • 2018/08/03 23:04

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