余裕

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金曜日。今朝はゆっくり目を覚ました。昨日どうも調子がおかしいと思っていたが、晩になってそれが頂点に達したらしい。もうすぐ零時という頃に相棒に激しく揺すられて目を覚ました。どうやら私は何かをしている間にベッドの上に倒れ込み、そのままになっていたらしい。らしい、と言うのは自覚が全くないからだ。何も覚えていないからだ。気絶、というやつだろう。相棒が見つけてくれたのは幸運だった。しかし怖いことだ。冬季休暇から夏季休暇の間はとても長く、心身ともに少し参っていたのだろう。それからこの暑さ。大人になってから暑さが苦手になったけれど、まだ、この暑さとうまく付き合う術を身に着けていない。これは誰にでもあり得ること。海の向こうに暮らす家族は私よりも賢く生活しているだろうか。私の友人達は元気にしているだろうか。兎に角、休暇までの残り3週間を心に余裕を持って元気に過す、これが暫くの間の目標だ。

少しフランス屋から遠のいている。春まではフランス屋に通う人達や店の人とお喋りしながらフランスのワインを楽しむために、仕事帰りにふらりと店に立ち寄ったものだけど。それが少しずつ変化しつつある。別にフランス屋を嫌いになったわけじゃない。ただ、家で相棒と夕食時にワインを楽しみたいだけだ。いつの頃からかワインの量が減った。それも別にワインが嫌いになったわけじゃない。自分の適量がようやくわかったからだろうと私は思っている。それでフランス屋に足が遠のいた分、時々バスを途中下車してジェラート屋に出向いている。旧市街の片隅にあって、古い店構えの、地味な雰囲気の店だ。同じ通りの少し先にもBIOの美味しいジェラート屋があるけれど、私がここが好きだ。素朴な味のジェラート、素朴な客層、それから素朴な感じの店主。店の奥でジェラートを作って顔を見せないことが多い店主だが、このところ人手不足なのかカウンターの中に姿を見せている。この店に初めて入ったのは11年程前の今頃だった。夏のセールの買い物につきあって欲しいと友人に声を掛けられて、土曜日の昼前に重い腰を上げて旧市街に行き、買い物を終えると友人がこの店に行こうと言いだしたのだ。え、どの店? 私がそれまで店の存在すら知らなかったのは、ポルティコの下にある店の外観があまりに地味で気が付かなかったからだ。夏の昼下がりの旧市街はまるで砂漠のように暑く、人の姿もまばらだった。ポルティコの下を歩きながら、私達がどんな話をしたかはもう覚えていない。ただ、友人が名のあるブランドの店で襟のラインが美しい白いシャツを購入してご機嫌だったことだけは覚えている。店に到着すると、ああ、こんな店があったのか、と私は開いた口が塞がらなかった。店の前を幾度も歩いていながら気付きさえしなかったことに、多少ながらショックを受けたと言ったらいいだろうか。店の中は客ひとり居ず、まるで店が開いていることすら忘れていたかのように、奥から店主が出てきた。私達は淹れたてのカッフェに好みのジェラートをふたつ落としたフラッペと呼ばれるものを注文した。それを友人が薦めたからだった。壁に沿って並ぶ小さなテーブル席に着いて店内をぐるりと見まわすと店主の好みがよく分かった。古いものが好きなのだ。由緒あるアンティークというよりも、古道具屋にあるような素朴な古い物。そういうものを私と相棒はアメリカに居た頃に沢山買い集めたものだ。だから私が店主に親しみを感じたのは当然と言えば当然だった。私達は時々店主と言葉を交わしながら一時間ほど店に居ただろうか。後にも先にも客はいなくて、今日は商売あがったりだ、みたいなことを言って店主が私達を笑わせたのを覚えている。あれが始まりで、私は時々仕事帰りにこの店に立ち寄るようになった。夏ばかりでなく秋も冬も、そして春も。時には店の奥で作っているチョコレートを買い求め、時には外は冷たい木枯らしが吹いているのにジェラートを注文したり。そのうち店主が顔を覚えてくれてくれるようになった。顔を覚えもらって得することは特にないが、店に入った瞬間に飛び切り機嫌の良い声で挨拶してもらえるのは、大変気持ちが良いものだ。やあ、元気かい。やあ、今日は暑いねえ。そんな程度だけれど。数日前もそうだった。注文したジェラートを小さなスプーンですくっては口に運び、それが口の中で溶けて広がるのを堪能していたら、店主が話しかけてきた。美味そうに食べるねえ。そうよ、だって美味しいんだもの。私がそう答えると、嬉しいねえ、そういう言葉は嬉しいねえ、と言って店主は顔いっぱいに笑みを広げた。世間話もしなければ、人の噂話もしない。ほんのひと言ふた言だけ。でも、それが一番気持ちいい。この距離感が丁度いい。

今夜は美しい星と月が見える。久しぶりに夜空を仰ぐ余裕ができた。時間ではない。気持ちの余裕だ。これ、実は馬鹿にならない大切なこと。夜空の星や月を眺める心の余裕は、生活の根本につながると私は信じている。




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Comment

moonriver

気絶・・・!
大丈夫ですか、お疲れなのでは・・

yspringmindさんの書く文章は毎回、ハッとさせられます。気づきを与えてくれるというか、今の自分に必要なことを、知らせてくれているような気がします。
➡ 「今夜は美しい星と月が見える。久しぶりに夜空を仰ぐ余裕ができた。時間ではない。気持ちの余裕だ。これ、実は馬鹿にならない大切なこと。夜空の星や月を眺める心の余裕は、生活の根本につながると私は信じている」

次は何を気づかせてくれるか、楽しみです(^◇^)

yspringmindさんは一緒にいると不思議と落ち着くな~という女性ではないでしょうか、、
余裕がある大人の女性と一緒にいると、居心地が良くて癒されると思います。
それに普段めったに怒らないのでなはいですか?(^J^)
  • URL
  • 2018/07/21 04:40

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2018/07/21 04:50

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2018/07/21 09:20

yspringmind

moonriverさん、こんにちは。全くねえ、驚きです。少しは自覚しなければいけません。20代の頃とはエネルギーが違うと言うことを。そうやって日々学んでいます。
私がどんな人間かは、実は自分にもわかりません。しかし昔に比べると、随分と落ち着いたように思います。冷めている、という意見もありますけれど。それで私が怒らないかどうかですが・・・・・ここ数年はすぐに怒ることがなくなりました。人間は皆、異なった考えを持っているものだ、といった考えが根底にあるからかもしれません。自分の考えだけを正しいと思うと怒りが沸き起こりますが、ははー、成程、こういう考え方をする人もいるのか、と思うとあまり大きな怒りにならないようです。
  • URL
  • 2018/07/21 19:37

yspringmind

鍵コメさん、こんにちは。大丈夫です。ちょっとびっくりしましたけれど。今回のことを通じて、ゆっくりしよう、と気付けて良かったのかもしれません。先日は少しも無理ではありませんでしたよ。とても楽しくて、良い晩でしたから。鍵コメさんは休暇を終えておうちに戻られたそうですね。イタリアの美味しいものを頂きながら旅の後片付け。それもなかなか楽しいことですね。
夕方、川縁に座ってビールを飲んでいる人々の様子を目に浮かべてみました。いいですね。そういう様子を眺めたいです。そして私はビールではなく、冷えたスパークリングワインをのみながら、鍵コメさんとお喋りを。なーんて。
今週末はゆっくりのんびり、です。したいことは沢山あるけれど。
  • URL
  • 2018/07/21 19:43

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