楽しい時間

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土曜日だというのに、間違えていつもの時間に起きてしまった。いや、実際はいつもの時間ではない。ふと目を覚ましたら窓の外が明るくて、えっ、と焦りながら時計を見るといつもの起床時間より30分ほど過ぎていた。目覚まし時計は鳴ったのだろうか。鳴ったのに無意識のうちに止めてしまったのだろうか。そんなことを思いながら慌ててベッドの中から抜け出して、キッチンに行くなりカッフェを淹れる準備に取り掛かった。寝過ごした、寝過ごしたと呪文のように唱えながら。小さなモカを取り出して、水を注いで。と、其処で思いだした。確か昨日の夕方は、同僚たちと帰り際に、良い週末をと言葉を交わしたような気がする。しかし分からない。ああ、分からない。今日は何曜日なのだろう。そうだ、携帯電話だ。箪笥の上に置いてあった携帯電話で確認したら土曜日。ああ、土曜日。良かったとほっとした気持ちと、折角の土曜日に早起きしてしまった後悔が交差した。ベッドにもう一度潜りこんだが目が冴えてしまったから観念して起きることにした。こんな一日の幕開け。それにしても空が明るくて高かった。

昼に髪を切りに行った。朝の涼しいうちに予約を取りたいと思っていたが、数日前に予約を入れた時には昼しか空きがなかった。涼しいうちに。誰も考えることは同じなのだ。髪の手入れをして貰っていたら、朝早く起きたせいなのか、眠気が襲ってきた。そんな私を目撃した店の女性が、隣のバールに走ってカッフェをご馳走してくれた。多分店から資金が出ているのだろう。この店に通うようになって一年と3か月ほど経つが、来るたびに飲み物をご馳走して貰っている。以前通っていた店とは10年近くの付き合いだったけれど、そんなことなど一度もなかったのは、予約制でないあの店には何時も10人ほどの順番待ちの客と10人ほどの手入れをして貰っている客が居たから、当然といえば当然だったのかもしれない。ひとりひとりの客に、飲み物を奢ってなどいられなかったに違いない。今の店は小さくて、だから予約制なのだと言うことだけど、とても感じがいい。何となく皆機嫌が良くて、近所の子供たちまでが店に入りこんで来たり、隣のバールにカッフェを注文して奢ってくれたり、行けば行くほど好きになる。以前の店の店主の腕は超がつくほど素晴らしかったけれど、潮時だったのだろうと思う。私は丁度良い時期に、髪を切る店を替えたと思う。ところでこの店に来る一部の客は大変興味深い。モーダの世界に関わっているのではないだろうかと思われるような、素晴らしく見栄えのする人達が髪を洗って貰っていたり、髪をカットして貰っている。それはもう、目を見張るほど素敵な人達。今日もそんな客が居た。彼を見かけるのはこれで数回目。何時も可愛い娘を連れている彼は、年齢で言えば50歳に手が届くかどうかと言ったところ。すらりと背が高く、少しのだぶつきもない。12月に見かけた時は仕立ての良いグレーのコートにシンプルな黒のセーターとパンツを合わせていたけれど、今日は膝より少し短めのダークグリーンのパンツを履いて上には白い半そでシャツ。かっちりした上質のシャツを着崩した彼の足元は素足にモカシン。口髭が気難しそうに見せ、髪形はそれに抵抗するようにカッコイイ。どんな職業についているのか彼を見かけるたびに想像してみたけれど、モーダ関係の写真家、それともモーダの雑誌関係者、そんな感じだろうか。着こなす術を知っていると言うのだろうか。シンプルなものを特別な感じに見せてくれる。それから柔らかい素材のひざ丈の黒のドレスを着た、髪の長い女性。すらりと背が高くて美しい。急に仕事が入って、髪をセットしに来たらしい。予約がなかったのに隙間に割り込みさせてくれたことを、店主に幾度も感謝した。何か特別な仕事なのだろうかと想像してみる。ジャーナリストか何かでテレビに出るのかもしれない。そういえば友人の夫はイタリア国営放送のジャーナリストで、彼は頻繁に髪を整えに行ったものだ。彼が有能だったからだろうか、その後はぐんぐん昇格してボローニャからローマへ、遂にはロンドンへ行ってしまった。能力ももちろん大切だけど、やはり見た目も大切なのだろう、こうした世界では。そうしているうちに私の髪はすっかり整って、楽しかった時間に終止符を打って店を出た。楽しい時間。そうだ、この店に来ることは、楽しい時間以外の何でもない。

夕方の空を飛び交うツバメたち。彼らの姿を見ると毎年同じことを思う。そんな季節になったのだなあ、と。そんな季節とは、上着の要らぬ、窓を開け放つのが気持ちの良い、遅くまで空が明るくてついつい夕食時間が遅くなる季節。一言で言えば大好きな季節だ。この季節を楽しまなくてどうしよう。小さな悩み事や心配事はひとまず胸のポケットの中にしまいこんでおこう。6月。ゆっくりテンポで生活しよう。




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moonriver

yspringmindさん、
小さな悩み事や心配事はひとまず胸のポケットの中にしまいこんでおこう。6月。ゆっくりテンポで生活しよう。

気にりました!私の心にすとーんと落ちてくるというか、パズルの凹凸がピタッと入るというか、、自分がいま必要としている言葉そのものようです。(^_-)-☆

 ありがとう・・・・
  • URL
  • 2018/06/17 09:21

yspringmind

moonriverさん、こんにちは。
毎日色んなことがありますねー。私も時々へこんでみたり、悩んでみたり。でも、とりあえずこの良い季節にそんなことに時間を費やすのは残念過ぎるから、ひとまず置いておいて、楽しみましょ。そのうちいい案が浮かんで来たり、時間が解決してくれますよ。それよりも、歩きましょ。美味しいものを食べましょ。よく冷えたスパークリングワインでも頂きましょ。
  • URL
  • 2018/06/17 20:28

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