自転車屋さん

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昨晩の疲れが嘘のように、今朝は元気に目が覚めた。外は晴れ。外気は冷たいが、そのうち気温が上がるだろうと、空に浮かぶ雲を見てそう思った。家じゅうの窓を開け放って空気を入れ替えた。外気が家の中に流れ込むとレースのカーテンがふわりと膨らんで、一瞬もう初夏になったかのかと錯覚した。いや、錯覚ではないかもしれない。もしかしたら、初夏はもう目の前にまで来ているかもしれない。以前は朝食をバールでとるのが好きだった相棒だが、昨年の今頃から生活習慣を変えたらしい。以来、土曜日の朝食は一緒に朝食をとるようになった。そのほかの日が一緒ではないのは、互いの朝食時間が異なるからだ。淹れたてのカッフェに沸かしたミルクを注ぐ。数枚のビスコッティにフルーツ。此れより多くても少なくてもいけない。長年工夫を重ねて出来上がった、私なりの朝食スタイルだ。これが今の私の健康を支えている、と思う。少量の朝食をたっぷりの時間を掛けていただいて、そして互いにそれぞれのことをする為に家を出た。

バスが向こうからやって来たのを見つけて走った。待っていてくれた運転手に礼を言うと、嬉しそうな笑顔を見せた。ありがとうは魔法の一言。大切な言葉だ。昨夕行った公園をバスの窓から眺めると、それはもう大変な賑わいだった。昼からは更に沢山の人が訪れることだろう。こんなに気持ちの良い土曜日なのだから。そう思いながら、旧市街に入って一つ目の停留所でバスを降りた。今日は歩く日。ポルティコの下は空いていて、時々人とすれ違う程度だった。どうやら大勢の人が公園に吸い込まれたらしい。これはいい。私は空いている街が好きだ。少し行くと、数年前までエステだった小さな店が自転車屋さんに変身していた。エステは30代の女性が独りで何年も営んでいたが、もう仕事が嫌になったのか、それとも経営が成り立たなくなったのか、それともほかの何かの理由なのか、1年ほど前に店を閉めてしまった。そしてその場所は長いこと放置されていて、その前を歩く度にほんの少し心が痛んだ。私は店の中に入ったことがあった。8年くらい前のことだ。彼女に訊きたいことがあって。店には彼女と、そして彼女の犬が居た。犬があまりにモジモジしているので私の存在が怖いのかと思ったら、老犬なのよ、怖いのではなくて恥ずかしいのよ、初めての人に会うのが、と彼女が言ったのを覚えている。犬はもう15歳を超えていて、歩くのも一苦労とのことだった。結局私は彼女の客になることはなかったが、私の質問に答えてくれて、色々親切に教えてくれて、とても良い印象が残った。仕事帰りの夕方遅くバスで店の前を通ると、ポルティコの下を彼女が犬を連れて歩いているのを時々見かけた。成程、犬は歩くのが大変らしく、散歩も時間が掛るようだった。それを彼女は急がせることもなく、一歩、また一歩、ゆっくり歩いている姿が優しく見えて嬉しかった。だから店が閉まっているのを見つけた時、心が痛んだ。もう彼女と犬の姿を見ることもないだろう、と。こんな小さな店が自転車屋さんになろうとは、いったい誰が想像したことだろう。新車をポルティコの下に数台並べ、この界隈に新しい風を吹かせる自転車屋さん。その前を通る誰もが足を止めて、自転車屋さんに声を掛ける。ボローニャは自転車。これは昔からの約束事みたいなもの。ボローニャの人達は自転車が好きだから、案外この店は流行るかもしれないけれど、新しい自転車はすぐに盗まれるから、どうだろう、どうだろう。

午後4時を前にして夕立が来た。明るい空から大粒の雨粒が落ちてきて、あっという間に地面が黒く濡れた。土の匂いが立ち上がって、私を喜ばせた。この匂いが大好きだ。夕立と言う言葉の響きも大好き。まったく初夏の予感のする午後。




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