土曜日

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待望の週末。昨日の感じでは怪しかった私の健康も、安眠と快眠で気分の良い朝を迎えることが出来た。感謝である。分厚い雲が空を埋め尽くしているが、雨が降る様子はない。カッフェを淹れて、簡単に朝食を済ますなり外に出た。風が冷たかった。昨日とは少し訳が違うらしい。今日は三寒四温の三寒にあたる日なのかもしれなかった。

バスの停留所の手前で年配の男性が私に明るい挨拶を投げた。誰だろうか、覚えがない。しかしこの界隈の人なのだろう、バールか何処かで話をしたことがあるのかもしれない、と私も機嫌のよい挨拶を返した。挨拶はいい。挨拶とはとても大切ことだと思っている。14時に約束がある。だからそれまでは自由散策。七つの教会群前の広場に広げられた骨董品市を見て歩き、塔の下を通り抜け、サン.ペトロニオ教会界隈を歩いた。風が冷たいので温かいダウンのコートに身を包んでいる人が半分。季節の先取りで早くもショートジャケットや薄手のトレンチ姿の人が半分。私はダウンのコートではないにしても、膝がほんの少し出るくらいの、茄子色の温かい冬のコートという、いつもながらの冬の装いだ。唯一いつもと違うのは、シルクの明るい色のスカーフ。少し春めきたくて、大振りのウールのストールを首元から取り外し、出掛ける前に急遽首に巻いたものだ。と、目の前を通り過ぎたのは美しいグリーンのコートの女性。赤毛のアンも驚くような人参色の髪が、グリーンのコートに良くマッチして、誰もが振り返った。特別美人ではないが独特の雰囲気を持つ存在感のある彼女が、もしや撮影中の女優か何かではないだろうかと思ったのは私だけではなかっただろう。その彼女が、広場に吹き抜けた冷たい風に首をすくめて、グレーと白の格子柄ストールを首から肩ににぐるぐる巻いた。その動作がまた美しくて、やはり何処かで撮影カメラが回っているのではなかろうかと、私は周囲を見まわすのだった。少しウィンドウショッピングを楽しんだ。春物を探しだ。顔色が明るく見えるような、明るいグリーン系のスカーフはないだろうか。雨を弾くような軽いトレンチコートはないだろうか。軽快な色のシンプルなシルクのセーターはないだろうか。しかし探している時には見つからないもので、1時間見て歩いて収穫はなし。どうやら今日はそういう日らしい、見て楽しむだけの日。14時の約束は爪の手入れ。5年ほど前に友人の美しい爪を見て触発された趣味みたいなものだ。彼女が通うサロンを紹介して貰って以来、自分で爪の手入れをすることがなくなった。それは小さなストレスからの解放であり、自分の時間を楽しむための第一歩でもあった。それから若い時はそれだけで美しいが、歳を重ねるとそうもいかぬ。綺麗でいる努力をするのは女性も男性も同じだろう。そういう努力が嫌になってしまった時、私達はぐっと老いるのだと思う。少なくとも私はそんな風に思っていて、そうした努力をしたいと思えることを、私は感謝しているのだ。人の目を気にするのではなくて、自分の為に。自分の為に綺麗でありたいと思うのはとても良いことだと思うのだけど、さて、どうだろう。それで爪の手入れが始まったら、後から洒落た客が入って来た。大変きれいに髪を整えた、美しい表情の女性だった。冬のコートの下にはカシミアのVネックセーター、そしてグレーのパンツ。スウェードのスリッポンを履いて、真珠のイヤリングをしていた。若々しい表情だが、恐らく70歳に近いだろう。彼女が店の人と話し始めた内容に聞き耳を立てて、そんな年齢が浮かび上がった。こうした女性の存在は嬉しい。手先を沢山使うから、爪は短くしてほしい、色はハッとするような濃いボルドーの赤がいい。彼女はそう言った。私が彼女の年齢になった時、彼女のようにお洒落に気をつけていられるだろうか。それは分からない。でも、思いがけず目の前に出現した彼女が今日から私の目標。こんな素敵な女性でいたいと思った。彼女はその上、大変フレンドリーだった。私に声を掛けてきて、20分ほど話をしただろうか。先に手入れを終えた彼女は一旦店のドアを開けたが、それを閉めて私に挨拶をしに戻って来た。お喋りが楽しかったこと、また何時か此処で会えればいいけれど。またね。そう言って今度こそ店から出ていった。残された私と店の人は顔を見合わせた。感じがいい、そうね、彼女は本当に感じがいい! 私達は口々に言い、自分たちもあんな女性でありたいと願った。良い土曜日。次の土曜日もこんな楽しい土曜日になればいいと思う。

最近食欲ががぜん低下して、食べなくても平気なくらいになってしまった。これは大変と思っていたが、どうやら一時的なものだったらしい。今夜はパスタを食べよう。野菜も沢山食べよう。そう言えばトリュフ入りペコリーノチーズがあったっけ。ならば赤ワインの栓を抜こうか。そんなことを考えられるのは元気な証拠。そんな小さなことですら嬉しい、土曜日の夜。




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Comment

micio

こんにちは、yspringmindさん。
トリュフ入りペコリーノチーズ!
ボローニャで買って行って、帰国してあっという間に無くなりました。笑
ミラノでも見かけて買い込みまして、それも帰国してあっという間に、、、苦笑

イタリアで、レストランで隣の席になった人達と話しが弾んで和やかな雰囲気になったことが何度かありましたが、少なくとも東京ではそういうことはまず無いですね。
大阪では何度かありましたが。

人間関係とか身分なんて取っ払って、その場に居合わせた人たちと楽しい時間をひととき共有する
イタリアの、そういうことがなんとなく出来てしまうところに強烈に惹かれているのかもしれません。

江戸っ子なんですが、関西のほうが好きですしね。笑
  • URL
  • 2018/03/11 08:00
  • Edit

yspringmind

micioさん、こんにちは。トリュフ入りペコリーノチーズは私の好物で、丸ごと購入してもすぐになくなってしまいます。私は遺伝mでコレステロールが高いのでワインやチーズに気をつけねばならないのですが、このふたつを控えるのは本当に難しいのです。あ、コレステロールが高いからと言って、健康に問題はなく、気を付けるに越したことはないと言った感じなのでご心配なく。
日本で隣の席の人と話をすることは本当に少ないですね。電車の中で隣の人と話すこともあまりないし、カフェでも…。誰彼構わず話しかけてしまう私を一緒にいる姉はひやひやしているようですが、イタリアではごく普通のことなんですよね。そういう観点から言えばmicioはイタリアに向いていると言えますね。
  • URL
  • 2018/03/11 22:42

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