何が幸せかということ

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予想以上の快晴。外を歩く人々の姿は軽快で、恐らくは10度以上に気温が上がっているのではないかと思われる。そっと窓を開けてみると、ほんのり春の匂いがした。ほんのりの理由は、やはりまだ冬だから。しかし確実に春へと向かっていると空気が教えてくれた。

空が青い。隣の建物のオレンジ色の壁に午後の陽が当たる様子を眺めながら、頑張らなくてはと自分を励ます。たかが熱を出したぐらいで体中が痺れるように痛くなって寝込んだ自分を、何だ、随分弱いじゃないか、と窘めながら、ふと私は友のことを思い出した。何年も病気と闘いながら静かな秋の終わりに天の昇った友は、自分の方が大そう大変だった筈なのに、扁桃腺は腫れていないか、熱は出していないか、ボローニャで上手くやっているのかと、私の心配ばかりしていた。私と彼女はアメリカ時代に幾つもの季節を共有した。疲れると夏と言わず冬と言わず扁桃腺を腫らせて高熱を出して寝込んだ私のことを、それから何年経っても心配していた。季節の変わり目は気を付けて。あまり頑張り過ぎないで。疲れたら自分に甘くしてあげるといい。そんなことを海の向こう側で綴っては、私に長い便りをよこした。今は分かる、彼女のこと。病になると体が辛くなる、病になると心細くなることを知っていたからこそ、彼女は私を心配したのだろう。彼女が居なくなってもう何年も経つけれど、私は彼女のことを思い出すたびに新しい何かを学ぶのだ。今も遠くの何処かから見守っていて、案外私のことを心配しているのかもしれない。
15年も前に、私は彼女を訪ねた。まだ彼女が元気だった頃のことだ。彼女はカナダの大きな湖のある町に暮らしていて、夫婦仲よさそうにしていた。彼女の恋が実っての結婚だったから、私はとても嬉しかった。彼女の仕事帰りや休みの日に、私達はよく街を歩いた。昔私達がそうして坂を一緒に歩いたように。夕食の後に暗い夜道を歩いてカフェへ行ったように。私達はもうあの頃のような若いお嬢さんの年齢ではなく、其れなりに立派な大人になっていたが、ふたりで肩を並べて歩くと10年も前に遡って、小さなどうでも良いことにも笑いが零れてしまい、体をくねらせて肩をぶつけ合いながら笑ったものだった。ある日、私達は何処かへ向かう途中だっただろうか、街路樹のある広い歩道を歩きながら恋愛や結婚について話をしていた。彼女は思い悩んでいた。それは私にも共通していたことだったから、私なりに考えていることを私なりの言葉で伝えたところ、彼女ははっとした表情で、それを私は言いたかったのだと言った。そして、何故あなたには私の気持ちがうまく伝わるのだろう、とも言った。他の誰に話しても、一番大切な部分を理解してもらえないのに、と。丁度、赤いひさしのある店の前だったのを覚えている。驚きの気持ちを隠さない彼女の表情を眺めながら、ああ、この赤い色は彼女にとても良く似合う、と思いながら、友と気持ちを共有できることの幸せを味わっていた。
彼女が、もう病に勝てそうにない、と思うようになったころ届いた彼女からの便りに、此れが恐らく最後の便りになると思うけれど、私はいつもあなたのことを遠くから応援している、と書かれていた。何を言うか、私のことなど心配したり応援したりしている場合ではないではないかと、便りの向こう側に彼女が居るかのように、私は握りこぶしを振り回しながら、涙をこぼしながら怒った。でも、今ならわかる。彼女は何時だってそうだったのだ。彼女はそう言う人だったのだ。人の喜びを自分のことのように喜び、人の苦しみを自分のことのように苦しむ。多分今だって何処かから、ああ、また熱を出してしまったね、と心配しているに違いないのだ。体を横たえてゆっくり休みなさいよ、と言っているのかもしれない。私は思う。そんな風に心配してくれる人が居る幸せ。何時も何処かから応援している人が居る幸せ。自分の喜びを一緒に喜んでくれる人が居る幸せ。そう思えば、私は大した幸せ者だ。

毎日、熟れたオレンジをひとつ。シチリアの太陽を浴びたオレンジ。もうすぐ終わりになるらしい。そうしたら、ボローニャにも春がやって来て、ミモザの花が咲き乱れ、店先に甘い匂いの赤い苺が並ぶだろう。




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コメント

暖かな春の空気を思い浮かべながら・・・・

養生され、速やかに回復されますようにと思いを馳せています。

忙しい一週間のお疲れもでたのでしょうか。
お大事にされて下さい。

猫ちゃんの温かさも素敵な応援となりますように!

2017/02/18 (Sat) 23:33 | るみこ #- | URL | 編集
お見舞い

yspringmindさん、お大事に、どうぞ、ゆっくりお休みください。たかがカゼかもしれませんが、つらいものはつらいものです。うんと甘えて、甘くなさって。

2017/02/19 (Sun) 09:49 | Chiyo #- | URL | 編集
Re: 暖かな春の空気を思い浮かべながら・・・・

るみこさん、有難うございます。週末ゆっくりしたのでだいぶよくなりました。でも風邪は完治させないといけませんね。後に尾を引かぬようにしなくては。猫! 猫は本当に温かいですね。湯たんぽみたいです。

2017/02/20 (Mon) 23:15 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: お見舞い

Chiyoさん、有難うございます。身体って大切にしてあげないと直ぐに故障するみたいです。この冬は例年に比べて元気だ、と自慢していたのに残念です。風邪、たかが風邪。でも風邪はちゃんと治さないと後で困ったことになる。もう暫くの間は、自分の体を労わろうと思います。

2017/02/20 (Mon) 23:19 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
やさしいお友達ですね。

2017/02/21 (Tue) 10:35 | つばめ #- | URL | 編集
No title

以前、お会いした時話して下さったのは、このお友達のことだったんですね。

素晴らしい春のボローニャを堪能できるように、早く元気になってくださいね♪

2017/02/22 (Wed) 05:55 | おりりん #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。彼女は本当に優しい。私は100年あっても彼女のような優しい人になれそうにありません。

2017/02/22 (Wed) 22:13 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: No title

おりりんさん、こんにちは。そうです、彼女のことです。私は良い友に恵まれた幸せ者です。
風邪、思うように治らず、てこずっています。元気に春を迎える為に只今風邪と葛藤中です。

2017/02/22 (Wed) 22:16 | yspringmind #- | URL | 編集

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