外国人の店

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金曜日の雨。これは予期せぬことだった。だから傘は持っていなかったし、何よりも夕方外に出たらアスファルトが濡れて、黒く光る様子にはがっかりした。雨と言っても目を凝らさねば見えないような霧雨。しかし傘を差さずに歩こうものなら、やはり外套がしっとり濡れてしまうような雨。そうでなくとも疲れていて真直ぐ家に帰ろうと思っていたが、この霧雨に追い立てられるように帰ってきた。途中、バスを乗り換えるついでに、食料品店に立ち寄った。パキスタン人が経営する店だ。先日オレンジを購入したら大変美味しかったあの店だ。店に入ると例の店主が居た。何しろ私は先日初めて店に入った新しい客なので、顔は全く覚えられていない。でも、シチリアはカターニャの郊外の、二匹のジャガー印のオレンジが欲しい、とても美味しかったから、と言うと直ぐに思い出したようだった。ああ、シニョーラ! あれはやっぱり美味しかったでしょう? と嬉しそうな顔になった。熟れて美味しそうなのを10個見繕ってほしいという私の注文に店主は嬉々として、ひとつひとつ吟味しながら袋に入れてくれた。あと2週間くらいでこのオレンジはお終いだから、その前にまた来るといいと言いながら、おまけしておくからと、勘定を済ませた後、オレンジをひとつ袋の中に入れてくれた。店主はパキスタン人。独特なアクセントを持ちながらも、実に滑らかなイタリア語を話す。上手と言うよりも、耳に心地よいと言ったほうが良い。そんな店主の話し方に促されて、余計なものまで購入してしまう客は少しながらもいるだろう。

以前この場所には、パソコンの修理屋さんがあった。場所が良いような悪いような。パソコンの修理屋さんも流行っていたのかいなかったのか、長いこと其処に存在していたのに、ある日突然姿を消した。そうしているうちに小さな食料品店が開き、店先に野菜や果物、ハーブの鉢植えなどが並ぶと、通りがかりの人ばかりでなく、バスに乗っている人も関心を示すようになった。私もそのひとりだった。何気なく店の前を歩いてみて、野菜や果物の鮮度を確認してみたり。結局私は旧市街の食料品市場の方が好きで、この店には足が向かなかった。ところが先日の夕方、乗り継ぎのバスがなかなか来ないのを利用して店に入ってみたところ、美味しいオレンジがあったと言う訳だ。店内には色んな種類のオレンジがあったが、店主は一番美味しいのを薦めてくれた。尤もそれが私の注文だったわけだけど、箱に入った沢山のオレンジの中から熟れて美味しいのを選び出してくれたところが、大変気に入ったのである。相棒や近所の人達に、この店でオレンジを購入したと言ったら、一様に驚き、眉をしかめながら、何故あの店で買い物をしたのだと言わんばかりに詰め寄った。まるで、あんな店で、とでも言うように。彼らもまた、私同様に店に足が向かなかった類の人達だからだった。しかし後に上質のオレンジを置いていると知ると、次第に関心が向き始めたらしい。皆、なんだかんだ言いながら、多少の偏見を持っているのだ。外国人の店に食料品を買い求めることに。20年前に比べれば外国人に随分と寛容になったボローニャだけど、未だにそうした偏見が心の根底にあることに、ほんの少し驚かされた。それから私にしても。パキスタン人の店で食料品を買い求めることに、彼らと同じような偏見が少なからずともあったのではないだろうか。それは全くおかしな話だ。何故なら私も外国人だから。どんなに長く暮らしても、私は外国人なのだから。これから10年経っても、20年経っても、私は此処では外国人でしかないのだから。

オレンジで一杯になった果物の籠を棚の上に置いておいたら、相棒が自らオレンジを取り出して食べ始めたのには驚いた。彼は果物を好んで食べる人ではないからだ。普段は私が皮を剝いて、ひとつひとつ手渡しして、そのうえ、果物は体にいいのだから、ビタミンがたっぷり含まれているのだからと言って、彼の気持ちを押さねば食べないような人なのだ。うーん、二匹のジャガー印のオレンジは美味いな。相棒はそう言いながらオレンジを頬張った。まさかこんなに気に入って貰えるとは。また近いうちに買い足しに行くとしよう。




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コメント

こんにちは、yspringmindさん。
春が来ていることはわかるのですが、まだ、冷え冷えしています。

パキスタンの人やいろんな国の人が行き交うなんて、なんて素敵なんでしょうと私だったら思います。
そういえば、昔住んでたとき京都の人に「京都何年目?」と聞かれたことが何度もあります。
はじめは意味がわかりませんでした。どうやら、都に長く住む人が都人(みやこびと)として立派であり、認めるみたいなのです。これには、ホトホトあきれました。
今の時代に、住んでいる場所、着ている服、何年住んでいるかで人の上下を判断する人がいるんだと知りました。
それから、私は京都が大の苦手です。
歴史がそうさせたのでしょうか。わかりません。
思っても黙っていてくれるならいいのに、口に出して相手に不愉快な思いをさせる人っているんだと初めて知ったのが京都でした。みんながみんなそうでないにしても、今思い出してもぞっとします。なぜなら、結構な割合でいやな思いを感じましたから。
バスに「日本に京都があってよかった。」
と標語ポスターがよく貼ってあります。ほんとかなあ、誰に誰がいってるのかなあと思います。
東京は嫌いって京都の人は言います。大阪嫌いとも言います。誰も相手にしてないと思うのに、自信はあるから、めんどくさい。その自信もほとんど地方からもたらされた物なのに、自分が作ったかのように自慢される。いっぺん、九州の福岡、熊本、鹿児島の辺の人が行ってくしゃんと言ってやってほしいくらいです。

2017/02/16 (Thu) 16:18 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。こちらボローニャも春と冬が行ったり来たり。まあ、春はまだなのかもしれません。2月に春なんて、ボローニャではありえない事なんですから。
パキスタン人、と思い込んでいたのです。でも、今日店に行ったら何処の国の人かと訊かれたので日本人だと答えた後に、相手にも同じことを訊ねてみたら、バングラデシュ人であることが分かりました。私が来たばかりの頃にはあり得なかったことです。パキスタン人にしても、バングラデシュ人にしても。今は街を歩いていたら驚くほどの外国人を見かけます。言いようによってはかなりインターナショナル。しかし差別や偏見は沢山あって、皆それぞれ苦労が絶えないと言ったところでしょうか。何故か店主に長々と、イタリアに来てからの苦労話を聞かされました。
日本国内に居てもそうしたものがあるようで驚きです。まあ、要するにどこに生活していてもあることなのですよ。気にしないこと。それが一番なのです。

2017/02/17 (Fri) 20:27 | yspringmind #- | URL | 編集

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