1月

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目を覚ましたら鼠色の空。曇り空とも呼べるが、其れよりも雪雲と呼んだほうが良いようなそらだった。一昨日の冷たい大風。昨日の驚くべき快晴と冷たい風。そして今日はこんな空で、私達人間は1月の空に大いに振り回されている。特に私。私は天気で気分がアップダウンするから困りものだ。あれは間違いなく雪雲だが、かと言って雪が降るでもなく。雪は降らないのだ、と思い始めた昼過ぎ、遂に雪が降り始めた。初めは目を凝らさなければ見えないような小さな雪の欠片で、そのうち窓越しに雪と分かるような雪が降り落ちてきた。積もらねば良いけれど、と心の隅っこで願いながら、窓辺に佇んで雪が舞う様子を眺めていた。

1月。忘れもしない1月のこと。私は相棒の車でローマを目指した。ボローニャで安定した仕事に就くことを諦めた私は、ローマに就職先を見つけた。普通の人ならば、配偶者を置いて別の街にひとりで引っ越しするなんて考えもしないだろう。だから私がローマで仕事を得て、独りローマに移り住もうとするのを周囲の人達は決して快く思っていなかったと思う。でも、私にとって周囲の人達がどう思うとかはあまり大きな問題ではなかった。私は、相棒が同意してくれていればそれで十分だった。相棒は、恐らく寂しかったに違いない。その証拠にローマの仕事の誘いがあった後、酷く慌ててボローニャで私がしたいと思うような仕事が無いかと探し回っていたから。21年も前のことである。あの頃のボローニャと言ったら、外国人が定職に就くなんて夢のような話だった。私がローマの仕事に就くことを相棒が了解してくれたのは、相棒がボローニャでの現実を知ったからと言っても良かった。私は自分の足で立って生活するのが好きだった。結婚しているからと言って相棒に頼って生活することが出来ないタイプの人間だった。もし私が違うタイプの性格だったら、どんなに楽だっただろう。兎に角そんなだから、相棒も引き留めることをせずに、思い切り頑張ってくるといい、と送り出してくれた。
ローマへ行けばすべてがうまくいく、なんて思っていなかった。でも、少なくとも自分の力で生活を切り開いていかねばならぬことで、失いかけていた自分を取り戻すきっかけとなった。好きだったアメリカの生活を引き払ってボローニャに暮らし始めてから、私は日に日に元気を失っていったから。外国人というのは、と言われるばかりで、肩身が狭くて仕方なかった。自分が外国人であることを始めて実感したのもそのころである。私がアメリカに暮らしていた頃は、自分を外国人と感じたことがあまりなかったからである。ローマの何がよかったかと言えば、例えば空が広いこと。大観光地であるが為に外国人であることで周囲に注目されないで済んだこと。もっとも知らない土地で生活するのは簡単とは言い難かったが、しかしいつもどの国のどの町でも始めはそんな風だったから、別に辛いとは思わなかった。
今思えば、随分勇気があったと思う。同じことを今の自分が出来るかと言えば、それはちょっとわからない。若かったからできたことなのかもしれない。いいや、それとも人間切羽詰れば火事場の底力みたいに。なんとかしなければ、と行動に移すことが出来るのかもしれない。そして今思うことは、あの時の世間的には突拍子もない行動が今の自分を支えていると言うこと。くじけそうになった時に思いだすのは、何時も21年前の1月のことだ。出来ない事なんてない。不可能なことなんてない。やってみればいいだけなのだ、と。
最近知ったことなのだが、そんな突拍子もない行動をとって周囲を驚かせて、随分と後ろ指を刺されたというのに、あの頃のそんな私のことを相棒は誇りに思っていてくれたことだ。私を強い人間だと、諦めない人間だと、周囲の評判を気にしないで前に進んで行ける女性だと。確かに彼は寂しかっただろうけれど、そんな風に思ってくれていたのだ、やはり応援してくれていたのだと21年も経ってから知って、私は相棒に頭が上がらない。私が自分を取り戻せたのは、私がローマで仕事をすることが出来たのは、結局自分の力ではなくて、そうした見えない相棒の支えがあったからなのだと。
1月というのはそういう月だ。一年に一度くらい思い出して、それらの全てに感謝するのも悪くない。

それにしても雪はあっという間に止んでしまった。これでいい。積もったりしたら後が厄介だからという私を、ロマンティックでないと人は言う。ロマンティックねえ。勿論私もロマンティックは好きだけど、出来れば雪は避けておきたい。その代わりにこんなのはどうだろう。月を眺めながら相棒と旧市街の広場を一緒に散歩する。寒いから腕をぎゅっと組んで、寄り添って。恋人時代にそうしたように。




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コメント

No title

こんな寒い一月に心が温かくなる思い出 いいですね。
ところで 明日から もっと寒くなるようなのですけれど。
うちのあたりは 坂で 道が凍ったら もうどこにも いけないかも、、、、

2017/01/16 (Mon) 14:10 | kimilo, #036/uE16 | URL | 編集
Re: No title

kimiloさん、こんにちは。お家の辺りは坂ですか。いいですね。坂はいいです。と言いながらも、確かに道が凍ったら危ないですね。うちも家を出ると一瞬だけ坂道なのです。この坂、結構な傾斜で2冬前に雪が降った時、派手に滑って転んだ痛い経験ありです。

2017/01/16 (Mon) 23:28 | yspringmind #- | URL | 編集
No title

転んでしまいましたか。痛かったでしょう。
わたしも 転んだことが何度もあります。 転びたくなくて 緊張して歩くものだから 肩がこるし。
今日から マイナスの日々です。でも 天気が良いので プールに泳ぎに行きました。帰りは体がぽかぽかです。

2017/01/17 (Tue) 15:15 | kimilon #036/uE16 | URL | 編集
Re: No title

kimilonさん、痛かったですよー。尻餅をついて、しかもそのまま、シューっと坂を滑りました。周囲から見れば、何やってるの? みたいな感じで、痛かったけれど酷く恥ずかしかったのを覚えています。今は我ながら笑えますが。そうそう、転ばないように歩くと肩がこるものですね。これ、同感ですよ。
今日から氷点下ですか。風邪を引かないようにしましょうね。

2017/01/17 (Tue) 22:40 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
おもしろい絵ですね。どの建物の窓がいいかな。一本の線から街が始まって、海辺の街のような、サンフランシスコのような。

2017/01/18 (Wed) 09:10 | つばめ #- | URL | 編集
No title

あら ごめんなさい。転んだまま シューっと滑って行くところを想像して 思わず くすっとなってしまいました・
気を付けましょう 私も

2017/01/18 (Wed) 15:11 | kimilon #036/uE16 | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさんこんにちは。面白いでしょう?ボローニャ旧市街のところどころに、こんな絵が張られています。私はこういうのが大好きなので、見つけては足を止めて鑑賞するのですが、そうすると次から次へと観客が増えていくんです。それまでは皆通り過ぎて行ってたのに。気が付かないのでしょうか。それとも足を止めてじっくり鑑賞するのが恥ずかしいとか?

2017/01/19 (Thu) 22:49 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: No title

kimilonさん、いいんですよ。通りかかった人なんて大笑いしていましたから。私だってそんなシーンに遭遇したら、やっぱり笑ってしまうもの。ふふふ。

2017/01/19 (Thu) 22:50 | yspringmind #- | URL | 編集

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