冬の休暇が終わる頃

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17時。少し前なら真っ暗だったが、1月7日の今日は、まだ空がほんのり明るい。冬至を超えて少しづつ日が長くなっていると頭でわかってはいたけれど、17時を迎えてもほんのりと明るい空を眺めながら改めて実感する。冬はまだ続くけれど、話しによればこれからが本番らしいけれど、一歩一歩、私達は春に向かっているのだろう。そう思うことは単なる気休めというよりは希望というに等しい。寒い冬は必ず終わって次には春がやって来る。私がボローニャに暮らし始めた頃、なかなか軌道に乗れなくてぐずっていた頃、家族や友人、知人たちがそう言って私を応援してくれたことを思い出す。単なる気休めに思えたそれが、明るい希望にする変わった頃、私はようやくボローニャの生活を受け入れられるようになった。尤も何事にも時間が掛かる私だから、10年も経ってのことだったけれども。何にしても夕方の空が明るいのは気分が良い。この調子、この調子、と夕方の空に声を掛ける。

うっかり風邪を引いたらしく、数日熱を出して寝込んだ。折角楽しい誘いがあったのに断らねばならなかったし、それから冬のサルディの初日も逃してしまった。このふたつのどちらが残念だったかと言えば、紛れもなく前者の楽しい誘いの方であろう。何しろサルディなんてものは、必ずしも初日でなくても良いからである。
さて、そう言う訳で今日は旧市街へ行った。街中がサルディで浮足立っていた。欲しいものは靴。見始めたらきりがない。だから目当ての店だけを見るのがよい。Via San Feliceにある気に入りの靴屋は酷い混み具合で話にならなかった。こういう混乱の中で買い物をすると大抵間違えが起きる。何となく買い物をしないと損するような気分になるからだ。それにしても驚きだ。決して安くないこの店の靴を、3足も4足も購入していく女性客のなんと多いことか。私など一足でも悩んでしまうと言うのに。そんな彼女たちを眺めていたら4足ほど購入した気分になり、何も得ずに外に出た。これでいい。私はやはり人混みが嫌いだ。其の足で相棒の靴を見に行った。靴なんてものは履いて試してみるものだけど、相棒にはどうでも良いことらしい。私が選んできたものを何時だって有難く履いてくれる。あった、あった。彼好みのが。数日前に見た時の半額だった。こういうのを収穫と言わずに何と言おうか。良いものを安くがモットーの相棒が喜ぶ様子が目に浮かぶようだった。今日は飛び切り寒く、たったの1度だった。体を冷やして熱をだしたら大変。さっさと帰ろうと歩き始めたところで目に留まった。それは男性の衣類を置く小さな店で、何時から在ったのか知らないけれど、何時覗いても客のひとりも入っていなくて、実に不思議な店だった。とは言いながらも、なかなかセンスが良く、何となくショーウィンドウの前で足を止めたくなる、そんな店だった。私の目を惹いたのは襟巻だった。チェックの襟巻を探していたのだが、見つからなかった。今年は好みの襟巻が無い、と諦めていたところに、ちょっと変わった襟巻が目に飛びこんできたのである。花柄だった。これを男性が首に巻くのだろうか。私はその襟巻を見せて貰いたくなって、ほんの興味半分で店に入った。外からは見えなかったが、店主が隅っこに腰を下ろしていた。華奢で繊細そうな人だった。あの襟巻を見せて貰えないだろうか。すると店主は喜んで見せてくれた。ウールだけれどチクチクしません、というのが店主の第一声だった。大判のウール地に手縫いで花柄があしらわれていた。男性への贈り物かと訊くので、いいや、自分の為だと言うとほんの少し驚いたようだった。女性が男性の店で、自分の為の襟巻を購入する。この店ではあまりないパターンなのかもしれない。首に巻いてみたら確かにチクチクしない。そして今までの自分の路線から少し外れる感じがあって面白かった。わあ、面白い、と喜ぶ私に店主は悪くないと言った。似合うだの素適だのと言わずに、悪くないと客に言う店主の感覚が気に入って、私達は話し始めた。彼は唐突に自分の名前を言って私に握手を求めた。繊細で、力仕事などしたことがなさそうな手だった。30分ほど話しただろうか。彼は日本人の目標達成のための集中力を褒めた。目標達成のためにすべてを我慢してまっすぐ行く。格好いいし、スマート、と。でも私は、友情や愛情、楽しむことも大切にするから達成までに時間が掛かって傍から見たらば、無駄が多いように見えるかもしれないけれど、私はそんなイタリア式が好きだと言った。だいたい、世の中に無駄なものなんてあまりないのだと思う。目標の為に切り捨てたものは戻ってこない。目標を達成できても一緒に喜んでくれる人が居ないのは幸せとは言えないのではないだろうか。そんな私に彼は、へえー、とまるで火星人でも見るような顔をみせたけれど。私はえらく気に入った襟巻を購入した。気に入ったのは襟巻ばかりじゃない。彼の人柄も気に入った。しかし何しろ男物の店だから、次にこの店に入ることは無いかもしれないと思っていたら、そんな私の気持ちを見透かしたかのように彼が言った。また、お喋りしたいな。別に買い物なんてしなくていいんだよ。
相棒には靴。自分の為には襟巻。なかなか良い買い物をした。寒かったけれど、思い切って外に出て良かった。

昨日の祝日を終えて、事実上ホリデーシーズンが終わったイタリア。夕方、クリスマスツリーを片付けた。猫はクリスマスツリーが姿を消して大そう残念そうだ。家の隅っこでいじけている。毎年のことだ。一週間もすれば忘れて元気になるだろう。私の冬の休暇も明日で終わり。月曜日からは忙しい生活が始まる。私の方は一週間ぐらいでは、ゆっくりと時間が流れる楽しい冬の休暇を忘れられそうにはない。




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コメント

こんにちは、yspringmindさん。
おもしろいお店を見つけたんですね。
人との出会いがいいですね。
yspringmindさんの言われる、無駄なものはなにもない、確かに日本人はだいぶ焦ってますね。

田舎から出たいんです。一刻も早く。
みんな、どこに行っても同じよと言いますが、違うと思うから。

2017/01/08 (Sun) 13:24 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。面白い人でした。店は、何しろ男性向けなので襟巻以外関心のあるものはありませんでしたけど。出会いはいつも何処にでも存在するものですね。
私は無駄という言葉があまり好きではありません。無駄。無駄。そのうち人間も無駄だと言って捨てられてしまうような気がして。田舎から出たいそうですね。うん、出てみるといいと思います。私がボローニャの田舎町に住んでいた時に、ローマへ行きたいと思って飛び出したみたいに。ローマの生活で私は自分を取り戻しましたよ。自分に合う場所を探すのも良いと思いますよ。

2017/01/08 (Sun) 19:42 | yspringmind #- | URL | 編集

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