気が付いたこと

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12月末。私が一番覚えている12月末は、アメリカに住み始めて1年も経たぬ頃のことだ。家族から離れていたからクリスマスを共に祝う人もいなかった。少ない知人達も、冬の休暇をよいことにどこか遠くへ足を延ばしてしまっていた。一緒に暮らしていた友人もどこかへ出掛けていたし、私は本当に独りぼっちだった。家族と離れて暮らすのは生まれて初めてのことではなかったが、これほどの長い距離が家族と私の間にあったのは初めてだった。ちょっと家に帰ることができないほどの距離。海の向こう側に来てしまった自分。自ら望んでアメリカ暮らしを始めたのに、これが外国に暮らすと言うことなのだと思い知った12月だった。11月終わりに、私は引っ越したばかりだった。ダウンタウンのストゥーディオを引き払い、其処から4ブロック坂を上がった辺りに友人とふたりには広すぎるアパートメントを借りた。陽当りが良くて快適な棲み家だった。私の部屋は南に面していて、大きな出窓があった。白い壁に白い出窓。子供の頃に通っていた小学校を思い出させるような、木製の床。壁に備え付けられたクローゼット以外は何もなかった。入居した時は持ち込んだ小さな机と椅子、机の割には大きすぎるランプしかなくて、あまりにも寂しかった。ミッション地区にある安い家具屋にマットレスを買いに行き、チャイナタウンで引き出しの箪笥を手に入れた。どれもこれも安物だったけれど、何の不満もなかった。贅沢しようと思えばできたのだろうけれど、あの頃の私はあの街で生活することだけで充分嬉しかったから、それ以外のことはどうでも良かったのだ。ようやく生活必需品が揃った頃にクリスマスがやって来たのは運がよかった。もしマットレスもなくて毛布にくるまって床に寝る生活が続いていたら、それはもう、侘しくて堪らなかっただろう。それでなくともクリスマスを一緒に祝う友人が居なくて寂しかったのだから。いや、寂しいと言うよりは、なにか取り残されてしまったと言うような感じだった。外に出ても人が歩いていなかった。まるでクリスマスと言う宇宙に人と言う人が吸い込まれてしまい、隠れていた私ひとりが地上に残ってしまったように思えてならなかった。いいや、同じような人が何処かに必ずいるに違いない、と私は人を探して歩いたが、こんな日なのにドラッグストアでレジをさせられてふくれっ面の女性しか見つけることが出来なかった。そうして遂に道を歩いている人に出会ったりすると、こんな日にひとりで街を歩いている者同士で、何かほっとしたりして。そうしてクリスマスが過ぎると街に人が戻ってきて、妙な安堵を感じたものだ。
私がアメリカ生活一年目の12月末をこれほど覚えているのは、望んでいたアメリカ生活一年目だったからではない。寂しかったからでもない。自分がこれほど寂しがり屋だとは知らなかった、其れに初めて気が付いたからだ。其れは私には大きな驚きだった。何故なら私は自分を強い人間、ひとりが好きな人間、ひとりで居ることを愛しているのだと信じていたから。そしてそれを境に私は随分と変わった。人と話したい。人と接することが大好きになった。私が其れまでぶち当たっていた英語という言葉の壁を、えいっと乗り越えることが出来たのも、こんなことが背後にあったかもしれない。人はひとりでは生きていけない。皆が色んな形で交わりながら、知らず知らずのうちに関わりながら、気が付かないだけで助け合いながら生きているのだと知ったのも、その年の末ことだった。私は何時も人よりテンポが遅れているから、そんな大人になってからようやく気が付いたのだ。クリスマスを軸にして色んなことを学んだ時期だった。25年も経つ今もクリスマスになると思い出す。そして思うのだ。気が付くことが出来た喜び。人より遅かったかもしれないけれど、遅すぎはしなかったこと。

髪を切った。短か過ぎると風邪を引くからと言って、あまり切らないでと言ったのに大そう短くしてくれた。きゃっ。短いね。襟巻で首元をぐるぐる巻いておかなくちゃ。と言っていつもの店を後にしたが、悪くない、全然悪くない。髪が短くなって気分爽快だ。




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コメント

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2016/12/28 (Wed) 01:22 | # | | 編集
No title

yspringmindさん、今晩は。髪を切ると気持ちが爽やかになりますよね!着きました、ボローニャ!昨日メールでメッセージ送りました。お会い出来るのを楽しみにしています。

2016/12/28 (Wed) 18:20 | michiyo #hjUPE3us | URL | 編集
Re: No title

鍵コメさん、こんにちは。あの独りぼっちのクリスマス。今思い出しても寂しいですが、そんなことがきっかけで気が付くこともあるものです。そういう意味では私にとっては良いクリスマスだったのかもしれませんね。
何をさせても時間が掛かります、私は。特に人が簡単にできることに時間が掛かり、人が出来ないようなことがごく普通にできるので、子供の頃から変わった子供扱いをされていたことを、鍵コメさんのコメントを読んでいるうちに思い出しました。どうしてこんなことが出来ないの?と言われることが多かったけれど、どきどき絶賛されたりして。子供心に大変複雑な気分を味わったものです。私は遅く咲く花なのかなあ。其れでもいいな、花がちゃんと咲くんだから。
血液型は私もあまり気にしていません。私はAB型ですが其れほど几帳面でもなく、自分では"何となく型"なんて呼んでいるくらいです。なる様になるさ型、ともいえるかもしれませんね。ははは。
それにしても短い髪です。相棒もびっくりでした。

2016/12/28 (Wed) 19:48 | yspringmind #- | URL | 編集
Re: No title

michiyoさん、こんにちは。コメントを頂かなかったらメール機能が故障していることにすら気が付きませんでしたよ。有難うございました。ボローニャ到着。ようこそボローニャへ。楽しい小旅行になりますように。私もお会いするのが大変楽しみです。

2016/12/28 (Wed) 19:53 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは、yspringmindさん。
私も学生のとき、親元を離れて暮らすことになり、はじめはぼやーっと暮らしてたのですが、お休みになると全く一人なんですよね。ああ、一人だと思って、自分の馴染みのあるような景色を探して、とぼとぼ歩いたことを思い出しました。そのとき、自分の中で、これじゃあいけないと思って、ピッと一気にエンジンがかかったのを覚えています。幸いに、私は、学生としてすごすには、その奈良という土地を愛することができました。いい友達にも山ほど会えました。奈良が地味ながらも歴史的に他国の人を受け入れて来た土地が合っていたのです。自然もいっぱいですし。
今は、それこそ、自分のエンジンがかからず、困っていますがね。今日は年末ということもあって、久しぶりにお酒を口にしました。たまにはいいでしょう。これが、もし、イタリアでも訪ねて夜、月を見ながらワインをいただけたら、遠い深い歴史の狭間を、のぞくことが出来るかもしれませんね。私もわかるのですが、yspringmindさんのおっしゃる、おそくても咲ける花で良かったという言葉に、そのようになれたらいいなあと強く思うのです。気づかせてもらいました。でも、私は反骨精神が強いので、何に対しても時間がかかるようです。このような人間は日本では合わないんだろうなと、うすうす感じています。すみません。ちょっと、飲んでますから。人種のるつぼに住んでみたいなあ。東京や人種のるつぼで、人のために働いて見たいなあ。夢をかなえたいなあ。自分のボーダーを越えたいなあ。自分の良心に従いながら、一般常識という日本の価値観を越えたいなあ。人種のるつぼに住みたいなあ。うわべばっかりの日本より、熱く生きたいいなあ。どこにあるんだろう。まだ、自分のなかにそんな情熱の小さすぎる火を確認するために飲んだようです。それにしても、yspringmindさんに、いつか会いたいような会わずにお話を続けた方がいいような。自分の中の火を探して。

2016/12/30 (Fri) 00:58 | つばめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、こんにちは。奈良で一人暮らし。奈良という土地がつばめさんに合ったのは幸運でしたね。暮らす町との相性は本当に大切です。
久しぶりにお酒。まあ、久しぶりなんですね。こんなことを書くと誤解を招くかもしれませんが、私はワインを頂かない日は一日だってありません。そうですねえ、例えば扁桃腺の為に抗生物質を飲んでいる時くらいでしょうか、ワインに手が伸びないのは。決して私だけではありません、イタリアの人達は大抵こんな具合です。
人間はこう、女性はこう、この年齢の人達はこう、と一括りにする人たちが沢山いますね。でも、本当は誰もが微妙に違っていて、違う考え方があって、違う生活の仕方があるのだと思います。例えば洋服の着こなしが違うように。皆同じだったらロボットみたいではありませんか。私はそうなりたくないなあ。私は私でいたいなあ、と思います。つばめさんもつばめさんで居たらよいと思います。私はそう願っています。
いつか私に会ったら。どうでしょうね。え?こんな人だったの?なーんて、がっかりさせてしまったらどうしましょう。

2016/12/30 (Fri) 19:30 | yspringmind #- | URL | 編集

こんにちは。
だだっ子のようで。
昔は、カッコ悪い大人も強い大人も山ほどいて、それが社会を作っていたかも。
それが、どうしてか、カッコいい社会、きれいな社会に昇華されて、無様な大人はだめみたいになったような気がします。私はわたし。そうありたい。そうある社会を作りたい。そういう確認のために小さい成長ために生きてるようです。

2016/12/31 (Sat) 02:11 | つぱめ #- | URL | 編集
Re: タイトルなし

つばめさん、自分の人生の上で、自分が自分らしく居ること以上、大切なことってないかもしれませんよ。多分みんな試行錯誤しながら、手探りしながら生きているのだと思います。

2016/12/31 (Sat) 18:06 | yspringmind #- | URL | 編集

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